事業モデル
ファーストコーポレーションは2011年6月設立の東証スタンダード上場ゼネコンで、東京圏(1都3県)を主たる事業エリアとする分譲マンション建設を中核事業とする。同社の最大の特徴は「造注方式」と呼ばれる独自のビジネスモデルにある。造注方式とは、同社がマンション用地を独自に開発・探索し、マンション・デベロッパーに対して「土地+建物プラン」を一体として提案し、デベロッパーから特命で建築を請け負う受注方式である。
これにより競争入札を回避し、高い利益率での受注を実現している。また、デベロッパーと共同で分譲マンション販売に参画する「共同事業」も展開しており、建設請負収入に加えて不動産収益も獲得する複合的な収益構造を持つ。主要取引先は東京建物8804、中央日本土地建物、日鉄興和不動産、阪急阪神不動産、野村不動産、大和ハウス工業1925など大手優良デベロッパーで、特命・半特命的な継続取引が多数を占める。
建設事業と不動産事業の2セグメントを有し、2025年5月期は売上高432億円まで拡大した。さらに施工品質を担保するため、全物件に第三者機関による「杭・配筋・生コン」の工程検査を自社負担で実施するこだわりが顧客からの信頼獲得につながっている。
KPI
主要なKPIとして、まず売上高・受注高がある。2025年5月期の売上高は432億円(前期比52%増)と大幅成長を達成し、2026年5月期通期予想(上方修正後)は363億円・営業利益29億円を見込む。受注高については2026年3月末現在で195億円に達しており、今期会社見込みの200億円にほぼ達している状況である。
次に利益率指標として、完成工事総利益率が重要であり、2026年5月期第2四半期には前期の6.9%から11.9%へと大幅回復した。これは価格転嫁が困難だった物件の完工と、新規受注での適正価格受注が実現したことによる。ROEは2025年5月期実績17.11%・予想17.94%と高水準を維持しており、配当性向は30%以上を方針としてきたが今後40%を目安に引き上げを検討する。
バランスシート面では自己資本比率39.2%(2025年5月期)、有利子負債比率48.32%と適切な財務健全性を保っている。従業員数と施工キャパシティも重要KPIであり、現状では人材不足により年間300億円超の見積依頼を断らざるを得ない状況にあり、2031年に300名体制の達成が数値目標として掲げられている。
成長ドライバー
第一の成長ドライバーは東京圏の旺盛な分譲マンション需要である。1都3県の分譲マンション供給は2023年の26,886戸から2024年は約31,000戸と増加傾向にあり、住宅取得減税など税制優遇の追い風もあって居住用不動産需要は少子化下でも活況を呈している。第二のドライバーは中長期ビジョン「First VISION 2031」の実行であり、創業20周年となる2031年5月期に売上高1,000億円達成を目指している。
フェーズ1(2026〜2028年)では売上高500億円・営業利益35億円を目標とし、フェーズ2(2029〜2031年)で飛躍的成長を図る方針だ。第三のドライバーは人的資本投資による施工キャパシティの拡大で、毎年30名以上の新卒採用と積極的なキャリア採用により2031年までに300名体制を整備し、現状で受注を断っている案件(今期だけで12件300億円超)の取り込みを狙う。第四は建設種別の多様化であり、現在91%を占める分譲マンションから、非住宅(ホテル等)や再開発事業への展開を通じて収益の多様化と安定化を図る計画がある。
また不動産事業での自社開発物件(新築賃貸マンション等)の拡大も中長期的な収益源として育成中である。
リスク
最大のリスクは建設コストの高止まりと価格転嫁の困難さである。物価高・円安・人件費上昇により建設コストは高止まりしており、既存受注物件での採算悪化が2024年5月期に利益率低下(完成工事総利益率6.9%)として顕現した。第二のリスクは深刻な人材不足であり、現状でも受注機会を失い続けており、施工管理技術者の確保が事業拡大の最大のボトルネックとなっている。
第三は工事案件の集中リスクで、受注件数が少なく個別案件規模が大きいため、竣工時期のズレや進捗遅延が四半期ごとの業績に大きなブレを生じさせやすい(2026年5月期3Qは売上高前期比31%減)。第四は不動産事業の市況リスクであり、大口の土地売却や共同事業案件の有無が業績に大きく影響する構造を持つ。第五はデベロッパーへの依存度リスクで、主要取引先が大手数社に集中しており、それらとの関係悪化や不動産市況悪化による発注減が業績に直結する。
加えて、2031年の売上高1,000億円達成には多額の成長投資(人的資本・不動産投資・M&A)が必要であり、投資回収リスクも内包している。
競合
ファーストコーポレーションの主な競合は大手総合ゼネコン(鹿島・大林組1802・清水建設1803等)および中堅ゼネコンであるが、同社の「造注方式」はマンション特化ゼネコンとして差別化されたポジションを確立している。大手ゼネコンは総合建設の規模で優位を持つが、マンション用地の仕入から建設請負・共同販売まで一気通貫でこなす同社のビジネスモデルは特異であり、デベロッパーから「土地企画を持ち込んでくれる会社」として独自の地位を占める。
東京圏の分譲マンション市場における2024年5月期の市場シェアは約3%程度に過ぎず、シェア拡大の余地は大きい。競合優位の源泉は①デベロッパーとの長期継続取引による安定的な特命受注、②第三者機関検査を自社負担で全物件に実施する品質への徹底したこだわり、③土地開発専任部隊を擁する独自のバリューチェーン、の3点である。
比較競合として同じくマンション建設を手掛ける中小ゼネコン各社との競争は入札案件で発生するが、造注・共同事業での受注が多い同社は価格競争からある程度切り離されている。設立2011年という若い会社ながら主要デベロッパーとの関係を着実に拡大しており、参入障壁は低くないが競合環境は良好と評価できる。
バリュエーション
2026年4月15日時点の時価総額は約148億円で、2026年5月期予想PERは7.25倍(EPS予想153.45円)と建設業の平均PER水準(10〜15倍程度)と比較して割安圏にある。PBRは1.3倍で、ROE予想17.94%という高い資本効率を考慮すれば理論的なPBR(ROE/資本コスト)からは若干の割安感がある。配当利回りは予想4.14%(年間46円)と高く、インカム投資家にとっても魅力的な水準だ。
リスクとしては案件集中による業績変動(四半期ベースのブレが大きい)と、建設コスト高騰による利益率低下懸念がある。一方、2031年売上高1,000億円・売上高500億円(フェーズ1)という中長期ビジョンを掲げており、成長期待からのPER拡大余地もある。自己資本比率39.2%、有利子負債比率48.32%と財務は健全で、直近では増配(2025年5月期42円→2026年5月期予想46円)を継続しており、株主還元姿勢も積極的だ。
建設業の中でも独自性の高い造注ビジネスモデルと堅調な東京圏マンション需要を背景に、中長期的な成長期待とバリュー特性を併せ持つ銘柄と評価できる。