事業モデル

株式会社JSH(証券コード150A)は、「在宅医療事業」と「地方創生事業」の2事業を軸に、社会課題解決型ビジネスを展開するグロース上場企業である。在宅医療事業では、精神疾患を抱える患者を主対象に、全国27拠点(2025年4月時点)の訪問看護ステーション「コルディアーレ」から看護師等が居宅に訪問し、療養サービスを提供する。収益の9割以上は国民健康保険団体連合会・社会保険診療報酬支払基金への診療報酬請求によって得られる。

地方創生事業のメイン事業は障がい者雇用支援であり、地方(九州・北海道・岡山等)に屋内型水耕栽培農園「コルディアーレ農園」を21拠点開設し、都市部の民間企業が障がい者を雇用し農園で就業させる仕組みを提供している。2025年3月末時点の障がい者受入数は1,432人。収益モデルはサービス導入時のスポット売上(人材紹介)と、月額継続のリカーリング売上(定着支援・農園利用・水耕設備レンタル)に分かれており、農園売上の90%はリカーリングが占める。

また、連結子会社ショウタイム24株式会社が展開する「無人内見くん」サービス(不動産内見支援)も事業領域の一つであり、積水ハウス1928不動産への導入が2026年3月に発表された。長崎県五島市を拠点とする観光物産事業(旅行代理店・民泊・物販)は売上構成の1割未満にとどまる。

KPI

障がい者雇用支援事業における最重要KPIはARR(年間経常収益)であり、2025年3月期実績は25.89億円(前期比25%増)。利用企業数は2025年3月期に203社(前期172社から+31社)。ARPAは1,063千円(月次1利用企業あたりのリカーリング売上)。

12ヵ月平均解約率は0.32%(第9期)と低水準を維持しているが、前期0.08%から上昇しており推移を要注視。NRR(売上継続率)は2025年3月期116%と100%超を維持し、既存顧客からの収益拡張が続いている。在宅医療事業では訪問看護ステーション拠点数(2025年4月27拠点)と訪問看護利用者数が主要指標となる。

全社売上高は2025年3月期39.7億円(前期比+13.9%)、2026年3月期予想49.3億円(+24.2%)と高成長継続を見込む。一方、2026年3月期は農園の大規模投資(設備投資約7.9億円、前期比+457%)により当期純損失が▲1.94億円の見通しとなっている。営業キャッシュフローマージンは2025年3月期3.47%と前期の8.6%から低下しており、投資フェーズに入った影響が顕著である。

成長ドライバー

第一の成長ドライバーは障害者雇用促進法の法改正に伴う法定雇用率の引き上げである。2024年4月に2.3%から2.5%へ、さらに2026年7月には2.7%へ引き上げられることが決定しており、新たに11万人以上の障がい者雇用需要が生まれる見通し。2024年6月時点で法定雇用率を達成している民間企業はわずか46%に過ぎず、未達企業の需要取り込みが大きな成長機会となる。

第二のドライバーは農園の積極的な拡張戦略である。2025年3月期に福岡・熊本・札幌・岡山など4農園を新規開設し、東証グロース上場により調達した資金を農園設備投資に充当している。第三は在宅医療事業の全国拡大であり、2025年4月に5拠点を新規開設、既設ステーションからの利用者移管によりスピーディーに新拠点の収支改善を図る方針を採る。

第四は両事業のシナジーであり、農園周辺に訪問看護ステーションを設置することで精神障がい者の相互紹介が可能となり、医療機関との関係強化にもつながる。第五として、連結子会社ショウタイム24の「無人内見くん」が2026年3月に積水ハウス不動産へ導入開始され、不動産テック分野での新規収益軸となる可能性がある。

リスク

最大のリスクは法規制・行政指導に関するものである。厚生労働省は2023年以降、農園型障がい者雇用ビジネスに対して「望ましい取組のポイント」の公表や労働局・ハローワークによる指導・助言を強化しており、JSHのビジネスモデルに対する否定的な風評も存在する。今後、法改正や条例制定によってビジネスモデルが規制された場合、事業への影響は甚大(有報記載「影響度:大」)である。第二に、在宅医療事業における診療報酬制度改定リスクがある。

医療保険報酬は2年に1回、介護報酬は3年に1回改定され、報酬引き下げは直接的な収益悪化につながる。第三に、競合激化リスクである。障がい者雇用支援事業は同様のサービスを提供する競合が多数存在し、有報では「発生可能性:高」のリスクとして位置付けられている。第四に、人材確保リスクがある。

看護師・農園スタッフとも流動性が高く、採用難による事業拡大への制約が生じる。第五に、創業者野口和輝代表(保有割合36%)への経営依存がある。第六に、VCによる株式売却圧力があり、ジャフコグループ(21.56%)などのVCが段階的に売却する際、株価への悪影響が懸念される。2026年3月期は積極投資による赤字転落見込みであり、繰越欠損金の解消も当面は見込めない状況である。

競合

障がい者雇用支援事業の競合は、農園型・オフィス型を含む障がい者雇用ビジネス事業者が全国に多数存在する。JSHは「コルディアーレ農園」の屋内水耕栽培という差別化された就労環境(冷暖房完備・バリアフリー・看護師常駐・送迎サービス)で競合との差別化を図っている。

業界団体として「一般社団法人日本障害者雇用促進事業者協会」を同業他社と設立し、業界標準形成にも取り組んでいる。在宅医療(精神科訪問看護)分野では、株式会社N・フィールド(東証上場)が競合として存在するが、JSHは訪問診療コンサルティングとの組み合わせによる利用者獲得モデルで差別化している。

精神科訪問看護市場は競合が比較的少ないと会社側は認識しているが、資本力・知名度のある大手参入による競争激化リスクを有報で明示している。時価総額20億円規模と小型株であり、大手との競争においてブランド力・資金力では劣位にある一方、農園型障がい者雇用という先行者優位と在宅医療ノウハウを組み合わせた参入障壁が一定程度の競争優位をもたらしている。

バリュエーション

2026年5月時点の時価総額は約20億円(株価360円前後)。2025年3月期実績ベースのPERは約14倍(EPS 25.67円)、PBRは1.1倍(BPS 362.46円)と低バリュエーション。2026年3月期は農園の大規模設備投資(約7.9億円)によりフリーCFが▲5.5億円となり、当期純損失▲1.94億円を見込んでいることから、1〜2年は業績面での株価上昇は期待しづらい。

一方、ARR25.89億円・NRR116%というSaaS的に健全なリカーリング指標を踏まえると、農園投資が一巡した後の収益性改善が起きれば大幅な株価の見直しが期待される。自己資本比率68.3%・有利子負債比率14.24%と財務基盤は健全。法定雇用率2.7%(2026年7月)という強力な外部追い風が継続する中、利用企業数・ARRの成長軌道に乗れるかが評価軸となる。

時価総額20億円はARR25.9億円対比でPSR0.77倍と割安感があるが、赤字拡大リスク・VC売り圧力・出来高の低い流動性の薄さが株価上昇を制限している。中期事業ターゲット(2025年7月発表)の達成状況が今後の評価の最大の焦点となる。