事業モデル
第一カッター興業は、社会インフラの維持・更新に特化した切断・穿孔工事事業を主力とする専門建設会社である。1967年設立で本社は神奈川県茅ヶ崎市、東証スタンダード上場(コード1716)。主力の切断・穿孔工事事業は売上高の約97%を占め、工業用ダイヤモンドを用いた「ダイヤモンド工法」と高圧水を活用した「ウォータージェット工法」を二大技術として展開する。
工事の種類は土木(橋梁・港湾・ダム)、建築関連(解体・免震・耐震改修)、都市土木(鉄道・上下水道)、道路・空港、生産設備メンテナンスの5分野に及び、総合建設業者や道路建設業者からの下請け契約が中心の事業形態である。2025年6月期の売上高は202億2,800万円で、そのうち公共投資関連が70.9%を占め、高速道路など社会インフラ補修が主要な需要源となっている。グループは連結子会社4社(ウォールカッティング工業、新伸興業、アシレ、ユニペック)を通じて北海道から沖縄まで全国展開しており、ビルメンテナンス事業(給排水設備保守点検・貯水槽清掃)も副次的に手掛けている。
受注環境は公共事業依存が強く、国土交通省や高速道路会社(NEXCO)等の予算に左右されやすい構造だが、老朽化インフラの維持補修需要が高まる中で中長期的な受注基盤は安定している。
KPI
第1の重要KPIは売上高であり、2025年6月期は202億2,800万円(前期比3.3%減)。ピーク時の2023年6月期の221億6,400万円から減少トレンドにある一方、2026年6月期は205億円(同+1.3%増)と回復が見込まれる。第2のKPIは営業利益率で、2025年6月期は8.14%と2021〜2024年の11〜14%台から大幅に悪化した。
この要因は高速道路リニューアル工事の受注減少と原価・人件費上昇にあり、2026年6月期は9.39%への改善を目標とする。第3は自己資本比率で2025年6月期は86.4%、純資産194億円と財務基盤は極めて強固であり、有利子負債比率は1%未満で実質無借金経営を維持している。第4は配当性向で、2025年6月期は34%(1株40円)と過去最高水準に上昇した。
配当金額は2010年の1株2.5円から一貫して増配を続けており、株主還元に積極的な姿勢を示している。第5はROE・ROAで、2025年6月期のROEは6.9%、ROAは5.97%と直近の低水準から回復が見込まれる。2026年6月期第3四半期(2026年5月発表)では累計経常利益が前年同期比32.5%増の19億6,000万円と大幅回復しており、通期業績予想を維持している。
成長ドライバー
第1の成長ドライバーは、老朽化インフラの大規模補修・更新需要の長期継続である。日本では高度経済成長期に整備された橋梁、トンネル、高速道路の多くが建設後50年を超え、今後20〜30年にわたって補修・更新工事が増加する見通しである。国の防災・減災、国土強靭化計画が毎年度予算化されており、当社のような専門工事業者への安定的な発注が見込まれる。
第2のドライバーは技術差別化と新工法開発である。「Hydro-Jet RD工法」(橋梁床版交換時の工期半減)、「追従式プーリーユニット」、「Quattro FX」(橋梁桁・床版縁切り)、水圧駆動式水中切断工法「ECOA」など独自技術の蓄積が競合参入を阻む障壁となっている。また、レーザー工法という新技術についても実用化フェーズで検証中であり、バイオマス発電所等の新規領域への展開が期待される。
第3は西日本エリアへの地理的拡大で、中期経営計画2027では西日本での体制強化を目指し拠点強化のための用地取得を進めている。第4はM&Aによる成長で、同業でシナジー創出が期待できる企業の調査や施工工程の前後を補完できる企業との連携を積極的に推進している。第5は人材強化で、工事課社員が2020年の323名から2025年には401名に増加しており、施工能力の底上げが受注拡大につながる体制が整いつつある。
リスク
第1のリスクは公共事業予算への高度依存である。売上の70%超が公共投資関連工事であり、政府の建設投資予算の削減や景気後退による公共事業縮小が業績に直接影響する。特に高速道路リニューアル工事は年度ごとの変動が大きく、2025年6月期はこの減少が減収減益の主因となった。第2のリスクは原価・人件費上昇と受注競争激化である。
建設資材や機材の価格高騰、労務単価の上昇に加え、若年技術者の獲得競争が激しくなっており、コスト管理が利益率に直接影響する。2025年6月期は原価率が71.18%と直近最高水準に達しており、収益性改善が経営課題となっている。第3は自然災害リスクで、地震・台風等による工事現場での事故や工程遅延が業績に影響するほか、逆に大規模災害後の復旧需要が業績を押し上げるという二面性もある。第4は技術継承と人材確保リスクで、高度な切断・穿孔技術は熟練技術者に依存しており、少子高齢化による技術者不足が長期的な施工能力に影響する可能性がある。
第5はM&A・投資リスクで、積極的なM&A戦略や拠点強化投資が想定どおりのシナジーを生まない場合は収益性が低下するリスクがある。2025年6月期はフリーCFが-7億3,900万円とマイナスとなっており、大型投資の継続には注意が必要である。
競合
切断・穿孔工事市場は特殊技術を要するニッチな専門工事業の分野であり、総合建設業者(大手ゼネコン)とは異なり、高度な機械・技術・人員を備えた専業者が競合となる。第一カッター興業は同分野において売上高200億円超の規模と全国展開を持つ業界最大手クラスの事業者であり、技術力と実績で高いブランド認知を有する。持分法適用会社のダイヤモンド機工株式会社が九州地区を担当するなど、グループ内での地域連携で競合優位を高めている。
競合他社としては、ウォータージェット工法専業者や地場の専門切断工事業者が存在するが、大手ゼネコンとの長年の取引関係と施工実績で築いた信頼は参入障壁となっている。また、阪神高速道路や飛島建設との共同研究開発(Hydro-Jet RD工法)のように、発注者・元請けとの協業による独自工法開発が競合優位を継続的に更新するモデルとなっている。海外展開は行っておらず、国内建設インフラ市場に集中した戦略を採っている。
PBR0.78倍、PER9.49倍(予想)という割安な株価評価が示すとおり、市場での認知度は低いが、参入障壁の高い特殊工事の専業者として強固な競争ポジションを維持している。
バリュエーション
2026年6月3日時点の時価総額は166億円、株価1,386円で推移している。予想PERは9.49倍で、2010年以降の過去レンジ3.53〜17.55倍の中位以下に位置し、割安感が示唆される。PBRは0.78倍と純資産を下回る評価であり、自己資本比率86.4%・純資産194億円というバランスシートの安定性を市場が十分に評価していない可能性がある。
2025年6月期は高速道路リニューアル案件の減少と原価上昇が重なり、営業利益32.9%減という一時的な落ち込みが株価に反映されているとみられる。しかし、2026年6月期第3四半期では経常利益が前年同期比32.5%増と大幅回復しており、通期予想の営業利益19億2,500万円(前期比16.9%増)、純利益16億4,300万円(同23.8%増)が達成できれば、PER・PBR双方でのバリュー修正余地がある。配当利回りは予想2.89%(40円)と中期国債利回りを上回り、無借金経営・豊富な現金保有(82億円)も考慮すれば株主価値の裏付けは厚い。
一方でROE6.9%という収益性の低さ(改善予想8.18%)や、中期経営計画2027における売上・利益目標への未達ギャップが再評価の制約となっている。インフラ維持補修という長期テーマへの関心が高まる局面では、業界トップクラスの専門工事業者として再評価される可能性を持つ銘柄と判断できる。