事業モデル

株式会社ハンモック(173A)は、法人向けソフトウェアパッケージおよびクラウドサービスを主軸とする情報通信企業であり、大きく3つの事業領域で収益を得ている。第一の「ネットワークソリューション」では、IT資産管理・情報セキュリティ分野の「AssetView」シリーズを展開し、オンプレミス版の「AssetView」およびクラウド版の「AssetView Cloud+」として企業向けに提供している。同製品はITreview Grid Awardで8年連続受賞を達成するなど市場での認知度は高く、企業のエンドポイントセキュリティ強化を支援している。

第二の「セールスDXソリューション」では、名刺管理・営業支援ツール「ホットプロファイル」を中核商品として展開し、2026年4月には企業データベースを主要プランで標準提供開始するなど、CRM・SFA機能を強化している。第三の「AIデータエントリーソリューション」では、帳票設計不要のAI-OCRサービス「DX OCR」や受注業務改善OCR「AnyForm OCR」、クラウド型データ入力サービス「WOZE」を提供している。収益モデルはクラウドサービスを中心としたサブスクリプション(月額・年額ライセンス)と、オンプレミス製品のライセンス販売が混在する複合型であり、ARR(年間経常収益)の拡大を中期戦略に据えている。

東京都新宿区に本社を置き、2024年4月に東証グロース市場に上場した比較的新しい上場企業であるが、創業から30年以上の実績を持つ。

KPI

同社の最重要KPIは売上高成長率とARR(年間経常収益)の拡大である。売上高は2022年3月期の36.5億円から2026年3月期の48.9億円へと4期で約34%増加しており、前期比3.85%増と安定的に推移している。営業利益率は2022年3月期の10.6%から2026年3月期の17.1%へと改善しており、コスト構造の効率化が図られている。

OEM以外の売上は順調に推移し、OEMを除いたARRは前期比+10.2%増と開示されており、クラウドシフトによる安定収益基盤の拡大が評価される。ROEは2022年の76.2%から2026年の21.3%へと低下しているが、これは株主資本の充実(自己資本比率が25.8%→45.2%に改善)に起因する健全な変化である。ROAは9.6%(2026年3月期)と一定の水準を維持しており、資産効率は良好といえる。

EPSは2026年3月期で162.8円、2027年3月期予想138.8円と若干の減少予想(配当増加に伴う税負担等)となっているが、フリーキャッシュフローは2026年3月期に16.8億円と大幅に改善した。配当は一株40円(2026年3月期)から45円(2027年3月期予想)へと増加し、6期連続の最高益更新と連続増配が続いており、株主還元姿勢も評価できる。

成長ドライバー

ハンモックの主要な成長ドライバーとして、まず日本企業のDX推進に伴うIT資産管理・情報セキュリティ需要の拡大が挙げられる。サプライチェーン攻撃対策や改正保険業法対応など規制強化が進む中、AssetView Cloud+の需要は伸長しており、三菱重工業7011熊谷組1861、MIRARTHホールディングス、埼玉トヨペットなど大手企業への導入も相次いでいる。第二に、「ホットプロファイル」の機能拡充が成長を牽引している。

2025年5月にはAI議事録機能・AIファイル管理機能を搭載し、2026年4月には企業データベースを主要プランで標準提供開始するなど、名刺管理ツールから総合的な営業プラットフォームへの進化を遂げている。信用金庫(尼崎信用金庫、昭和信用金庫、金沢信用金庫など)や官公庁(名古屋市、山梨県など)への販路拡大も顕著である。第三に、2026年4月に発表されたアディッシュ7093株式会社(7093)との資本業務提携がある。

カスタマーサクセスやコミュニティ運営に強みを持つアディッシュとの連携により、SaaSビジネスの顧客定着率向上と新規事業開発が期待される。第四に、日本サイバーセキュリティファンドへの参画を通じたスタートアップへの投資(LRM社、コンステラセキュリティジャパン等)により、エコシステム形成を通じた事業領域の拡大も進めている。

リスク

同社が抱えるリスクとして、まず競合環境の激化が挙げられる。IT資産管理市場では大手ベンダーや海外クラウドサービスとの競合が激しく、特にSaaSシフトが加速する中でMicrosoftのIntuneなどグローバルプレイヤーとの直接競合が懸念される。名刺管理・セールスDX領域においてもSansanや名刺バンクなど競合が多く、差別化の維持が課題となる。

第二に、親会社の若山大典氏および創業家が発行済株式数の約34%超を保有するオーナー経営体制であり、支配株主リスクとして少数株主利益との利益相反が生じる可能性がある。第三に、売上高規模が48.9億円と中小規模であるため、大規模な新規投資や人材採用への財務的制約があり、急成長期の組織・インフラ対応に課題が生じる可能性がある。第四に、OEMビジネス(特定大手との取引)への依存度が一定程度あり、OEM先の戦略変更や契約条件変更が業績に影響する可能性がある。

第五に、光通信9435が発行済株式数の7.3%を保有しており(大量保有報告)、今後の持分変動が経営に影響を及ぼす可能性がある。また、セキュリティ製品を扱う企業として、自社製品・インフラへのサイバー攻撃や情報漏洩リスクも潜在的なリスク要因として認識する必要がある。

競合

IT資産管理・セキュリティ分野における直接競合としては、Sky株式会社のSKYSEA(国内シェア最大)、コンプライアンスベース、ManageEngineなどがある。しかしAssetViewは「ヒトを軸とした」情報セキュリティという独自コンセプトと8年連続のITreview Grid Award受賞実績を持ち、中堅・大手企業での導入実績が豊富である。

名刺管理・セールスDX領域では、Sansan(4443)が業界最大手であり、同社「ホットプロファイル」は規模的に劣るものの、信用金庫・官公庁・地方企業など特定セグメントへの訴求力と低価格帯での総合機能において差別化を図っている。AI-OCR領域ではAI inside、アビリティーズ・ケアネット、DX Suite等が競合となるが、「帳票設計不要」という使いやすさを売りにした差別化戦略を取っている。

競合優位の源泉は、30年以上の企業向けソフトウェア開発の蓄積と導入実績(ブランド信頼性)、製品群の横断的なシナジー(同一顧客への複数製品クロスセル)、および中小企業から大手企業・官公庁まで対応できる柔軟なデプロイモデル(オンプレ・クラウド共存)にある。東証コンピュータシステムとの協業(2025年9月)やアディッシュ提携(2026年4月)により、エコシステム拡大を図っている。

バリュエーション

2026年6月時点での時価総額は約58億円、株価1,324円(6月16日終値)である。PERは予想9.68倍(2027年3月期予想EPS138.8円基準)と、グロース市場の情報通信業としては低水準であり、割安感がある。PBRは1.76倍と純資産(32.1億円)に対してプレミアムが小さい。

ROE予想18.2%、ROA予想8.2%と高水準であることを考慮すると、市場の評価は保守的といえる。配当利回りは予想3.35%と、グロース株としては異例の高水準にあり、安定配当・増配方針が確認されている(6期連続最高益・連続増配)。EPS予想が2027年3月期に減益(162.8円→138.8円)となる見通しが株価の上値を抑えている要因の一つと考えられる。

フリーキャッシュフローは2026年3月期に16.8億円と時価総額の約29%に相当し、FCF利回りが高い。グロース市場の同業他社と比較すると、営業利益率17%・FCF利回り約29%・配当利回り3.3%という組み合わせは、実質的に低成長・高配当の「バリュー成長株」的な性質を持つ。時価総額約58億円は市場に認知されていない小型株であり、アディッシュ提携や継続的な大手企業への導入事例積み上げによる認知度向上がカタリストとなり得る。