「3倍」の見出しは、誰への値上げか

「メガバンクの3倍」という見出しが、預金の世界で当たり前になりました。

実際、2026年8月3日時点で、三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の1年もの定期預金の金利は0.50%です。100万円を1年預けて、受け取れる利息はおよそ5000円。一方、新規口座開設者限定の「はじめての定期預金<はじめくん>」を出したSBJ銀行は1.67%で、同じ100万円が1万6700円になります。メガバンクの3倍以上の利息を受け取れる、という計算になります。

普通預金も同じ流れです。メガバンク3行は2026年8月3日から、普通預金金利を0.300%から0.400%へ引き上げました。マイナス金利政策が解除される前、2024年3月時点のメガバンクの普通預金金利は0.001%でしたから、約2年で400倍という桁の変化です。

預金者から見れば、これは値上げではなく値下げのない朗報です。ところが、銀行の損益計算書の側から同じニュースを見ると、風景がまったく変わります。預金は銀行にとって「集めてくるお金」であり、そこに払う利息は仕入れ値にあたるからです。金利を上げるとは、仕入れ値を自分から引き上げることにほかなりません。

同じ1つの見出しが、立つ場所で符号を逆にするのだ。

この記事で追いかけるのは、次の問いです。金利が上がると、銀行はいつ儲かり、いつ儲からなくなるのか。そして投資家は、その切り替わりをどこで見つければいいのか。

銀行の儲けを一次分解する——利ざやとは何の引き算か

まず、銀行の稼ぎ方を一段だけ分解します。

銀行の本業の利益は「資金利益」と呼ばれます。貸出や有価証券から受け取る利息(資金運用収益)から、預金や市場からお金を借りるときに払う利息(資金調達費用)を引いたもの、と考えてください。要するに、仕入れて売る商売です。仕入れ値は預金金利、売値は貸出金利。その差額が儲けになります。

この差を総資産で割った比率が NIM(純金利マージン、ネット・インタレスト・マージン)です。硬い言葉ですが、中身は「預かったお金1単位あたり、何%抜けているか」を示す薄さの指標にすぎません。米国のある金融メディアは、NIM を「金融機関が住宅ローンや企業向けローンといった長期の商品から得る利益と、預金口座に対して支払う利息の差」と説明しています。

問題は、この差がとても薄いことです。世界銀行のデータをもとにした比較では、グローバル銀行の平均 NIM は約2.7%とされています。米国では、2022年末時点で資産規模500億〜990億ドルの銀行が最も高く、平均3.87%でした。逆に、2023年に破綻したシリコンバレー銀行の NIM は約2%だったとされています。数%どころか、コンマ数%の差が生死を分ける世界です。

邦銀については、みずほ証券が経費効率を分析した資料の中で、欧米の大手行と比べたときに「基礎的な収益力の低さ」を背景に経費率がやや高く映る、と指摘しています。稼ぐ厚みが薄いからこそ、わずかな利回り差の変化が利益に大きく効く——この構造が、銀行株が「金利の乗り物」と呼ばれる理由です。

もっとも、銀行の稼ぎは利ざやだけではありません。振込や運用商品の販売などで得る手数料収益(役務取引等利益)もあります。みずほフィナンシャルグループ8411の2025年度第3四半期累計の資料では、連結粗利益が2兆6246億円と前年同期比13.7%増えており、その要因として「日銀政策金利引き上げによる資金利益の伸長継続」に加えて「非金利ビジネスの好調」が挙げられています。金利と手数料は、両輪です。

それでも、金利局面で株価が動く主役は利ざやのほうです。銀行は、率で稼ぐのではなく差で稼ぐ引き算の商売である。

預金ベータ——上がった金利のうち、いくら預金者に渡すか

預金ベータの日米差。日本 40%、米国 73%

ここからが本題です。

「金利が上がれば銀行は儲かる」という理解は、半分だけ正しい。正しくない残りの半分は、貸出金利が上がるとき、預金金利も一緒に上がってしまうという点にあります。売値が上がっても仕入れ値が同じだけ上がれば、差は1円も広がりません。

この「後の追いかけ方」を測る指標が、預金ベータ(deposit beta)です。専門用語ですが、意味は単純な比率にすぎません。市場金利が1.0%上がったときに、銀行が預金金利の平均を0.25%引き上げたなら、預金ベータは25%。上がった金利のうち、4分の1を預金者に渡した、ということです。ある解説によれば、米国の過去の平均はおよそ40%程度とされ、金利サイクルや競争環境によって大きく変動しうるとされています。

日本でも、この追随の度合いは実際に測られています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、2025年12月の日銀利上げに対する銀行の普通預金金利の追随率は、前回の40%が踏襲されました。普通預金金利は0.2%から0.3%へ上がり、政策金利は0.5%から0.75%になった局面です。日銀が引き上げた分のうち4割が預金者に渡り、残りは銀行の手元に残ったことになります。

そして2026年6月、日銀は政策金利を0.75%程度から1.0%程度へ引き上げました。1995年以来、約31年ぶりの水準です。メガバンク3行は同じ6月16日にそろってプレスリリースを出し、普通預金金利を0.300%から0.400%へ、つまり前回と同じ0.1%ポイントだけ引き上げると発表しました。ここまでは、前回の型がそのまま繰り返された形です。

問題は、この40%という数字が固定されていないことです。預金ベータを動かすのは、金利の水準そのものではなく競争です。ある解説は、預金ベータに影響する要因として、金利水準、金利変動のスピード、銀行間の競争の激しさ、そして MMF(マネー・マーケット・ファンド)のような代替商品の魅力度を挙げています。競争が激しくなれば、銀行は取られたくない一心で、渡す割合を引き上げていきます。

米国では、それが極端な形で起きました。マネー・マーケット・ファンドの資産は2025年に記録的な7兆8200億ドルに達し、国債を裏づけにした競争力のある利回りで、金利に敏感な預金を銀行から引き剥がしていきました。その結果、預金ベータは直近の引き締めサイクルで73%まで上昇したとされています。上がった金利の7割強を預金者に渡す世界です。地域銀行の純金利マージンは、2025年第4四半期に3.8%まで圧縮されました。

日本でも「渡す割合」を高く設定する銀行はすでに現れています。あおぞら銀行8304BANKは2026年7月1日から普通預金金利を年1.00%(100万円まで)に、みんなの銀行は月額600円のプレミアム会員向けに0.9%、島根銀行7150スマートフォン支店は0.8%、Habittoは0.7%(100万円まで)に引き上げました。メガバンクの0.400%と並べると、同じ「普通預金」という名前の商品に、まるで違う値札が付いていることになります。

金利上昇が銀行の追い風になり続けるかどうかは、この一つの比率がほとんど決めているのだ。

利上げ相場の3つの局面

利上げ相場、銀行株の3局面。1 第1局面、2 第2局面、3 第3局面

同じ「利上げ」でも、銀行株にとっての意味は途中で変わります。大きく3つの局面に整理できます。

第1局面は、利上げの初期です。貸出金利や短期プライムレート(短プラ、変動型住宅ローンの基準金利の指標になる金利)は上がるのに、預金金利がほとんど動かない。2025年12月の利上げ時、三菱UFJ銀行とみずほ銀行は短プラを年1.875%から2.125%へ引き上げる一方、普通預金は0.2%から0.3%でした。売値だけが先に上がる局面であり、利ざやが素直に広がります。銀行株が最も気持ちよく上がるのはここです。

第2局面は、競争が始まったときです。預金ベータが上がり、利ざやの拡大が鈍ります。上でみた米国の73%は、この局面が行き着いた先の姿でした。日本はまだ40%の世界ですが、ネット銀行や地方の一部が1%近い普通預金金利を掲げ始めた以上、渡す割合が動かないと考える理由はありません。

第3局面は、金利が実体経済を冷やし始めたときです。朝日新聞の記事は、利上げが住宅ローンの変動金利や預金金利、企業の借入金利など幅広い金利を上昇させ、お金が借りにくくなることで物価や景気を押し下げる方向に働く、と説明しています。2026年6月の決定会合でも、浅田統一郎委員が中小企業金融などへの影響を懸念して利上げに反対しました。借り手が苦しくなれば、貸したお金が返ってこない懸念が増えます。利ざやが広くても、焦げ付きの費用が利益を削っていきます。

つまり「金利上昇=銀行株買い」という覚え方は、第1局面だけの経験則である。

いま日本がどこにいるのかは、断言できません。野村證券は、政策金利が2026年末に1.25%、2027年末に1.50%へ進むシナリオを確率70%のメインとしています。局面の切り替わりは、政策金利の水準ではなく、各行の決算に現れる数字のほうに先に出てくるでしょう。

預金は逃げる——率だけでなく「量」と「中身」

利ざやは率の話です。しかし、銀行の利益は率と量の掛け算で決まります。ここが見落とされがちなところです。

率で3割得をしても、預けてくれる人が半分になれば、利益は減ります。そして預金は、金利差がはっきり見えるようになった瞬間から動き始めます。ニッキンは2026年7月17日号の1面で、銀行界の支払い預金利息が異次元緩和の終了から2年で30倍になったと報じました。同紙の2026年6月19日号は、国内銀行の現金預け金が2年で67兆円減ったとも伝えています。金利のある世界とは、お金が座っていない世界です。

もっとも、すべての預金が同じ速さで動くわけではありません。決済に使う普通預金は、金利変動に鈍く残高が維持されやすい「コア預金」と呼ばれます。生活の引き落とし口座を、0.1%のために乗り換える人は多くありません。ニッキンの2026年1月23日号によれば、一部の信用金庫などでは普通預金金利の引き上げを見送る動きが出ており、その背景には「入出金の多い生活口座は、金利ではなく店舗やATMの利便性によって選ばれるため、わずかな金利差では預金は流出しにくい」という判断があったといいます。

逆に言えば、粘らない預金から先に動きます。金額が大きく、比較検討することに手間をかける合理性のある資金ほど、率の差に敏感です。米国で預金ベータを押し上げたのも、マネー・マーケット・ファンドに乗り換えた「金利感応度の高い預金」でした。

そしてもう一つ、率が同じでもコストが上がる経路があります。普通預金から定期預金へ、お金の置き場所が移っていくことです。ニッキンの同じ記事の見出しには、普通預金を据え置き「定期重視」に切り替える動きが並んでいます。普通預金0.400%と、みずほ銀行が2026年7月から実施しているキャンペーン定期の1年1.10%・3年1.55%を比べれば、どちらに寄るかは明らかです。金利表そのものは変えていなくても、預金の中身が高い商品に移るだけで、銀行の支払う利息は膨らみます。

動くときは速い、ということも忘れてはいけません。2023年に破綻したシリコンバレー銀行では、預金の85%がわずか2日で流出しました。ファースト・リパブリック・バンクは57%が90日で、2007年の英ノーザンロックは20%が4日でした。スマートフォンから24時間いつでも資金を移せる時代の取り付け騒ぎは「デジタルバンクラン」と呼ばれます。煽る話ではなく、預金という負債の性質が変わったという構造の話です。

率で勝っても、量で負ける——それが預金競争のもう一つの顔。

集めたお金の貸出先——利ざやと信用コストは同じ親から生まれる

高い金利を払って集めたお金は、それ以上の利回りで貸さなければ意味がありません。だから預金金利の引き上げは、必ず貸出の側とセットで見る必要があります。

ここに、金利上昇がもつ非対称性があります。金利が上がれば、貸出の利回りは上がる。同時に、借り手の返済負担も重くなる。利ざやの拡大と、貸したお金が焦げ付く懸念の増加は、まったく同じ原因から生まれてくる双子です。

焦げ付きに備えて計上する費用を、与信関係費用(信用コスト)と呼びます。銀行の決算資料に必ず出てくる項目で、みずほフィナンシャルグループの2025年度第3四半期累計では523億円が計上されています。同じ期の連結業務純益は1兆1482億円、経常利益は1兆2546億円、親会社株主純利益は1兆198億円でした。景気が穏やかなうちは、与信関係費用は利益の脇に置かれた小さな項目に見えます。しかし局面が変われば、この項目が主役に躍り出ます。

金利上昇のダメージは、資産の側にも出ます。日本の銀行は大量の債券を抱えており、金利が上がれば債券の価格は下がるからです。みずほの決算資料にも「金利上昇による債券ポートフォリオへの影響」という項目が置かれています。シリコンバレー銀行が破綻に至った経路も、資産の価値が金利で傷むところから始まりました。集めた預金をどこに置いているかは、預金金利と同じくらい重要な情報です。

投資家は決算のどこを見るか——4つのチェックポイント

決算資料で見る4つのチェックポイント。4つが並ぶ。預貸金利回り差と NIM の推移、預金の残高と構成、与信関係費用、手数料収益の比率

では、私たちは何を見ればいいのでしょうか。政策金利のニュースを追いかけるより、決算資料の4か所を毎回めくるほうが、はるかに早く局面の変化を捉えられます。

第一に、預貸金利回り差と NIM の推移です。貸出金の利回り、預金等の利回り、その差の3つが並んで載っています。三菱UFJフィナンシャル・グループの投資家説明会資料には、貸出金利回り・預金等利回り・預貸金利回り差が期ごとに並ぶページがあり、純金利収益率(NIM)も示されています。差が広がり続けているのか、それとも広がり方が鈍り始めたのか。第1局面から第2局面への移行は、ここに最初に出ます。

第二に、預金の残高と構成です。量が減っていないか、普通預金から定期預金への移動が進んでいないか。率が横ばいでも、中身が入れ替われば調達コストは上がります。

第三に、与信関係費用です。金額だけでなく、どの分野の貸出で増えているのかまで見る。ここが増え始めたら、第3局面が視野に入ってきたということです。

第四に、手数料収益の比率です。みずほの決算資料が「非金利ビジネスの好調」を増益の理由に挙げていたように、金利以外で稼ぐ足腰は、金利局面が変わったときの緩衝材になります。金利の乗り物に乗っているだけの銀行と、別のエンジンも持っている銀行では、同じ利上げでも耐え方が違います。

これらはいずれも、各社が公表する決算説明資料、決算短信、有価証券報告書に載っています。特別な情報源は要りません。必要なのは、どのページを開くかを知っていることだけです。

まとめ:ニュースの符号を、自分で決められるようになる

論点は、大きく4つに整理できます。

  • 銀行の利益は「貸出金利」ではなく「貸出金利 − 調達コスト」の引き算で決まる。
  • その差は金利が上がれば自動で広がるのではなく、預金金利がどれだけ後を追うか(預金ベータ)で決まる。日本の直近の追随率は40%だった。
  • 「金利上昇=銀行株買い」は、預金ベータが低いままの第1局面に限った経験則にすぎない。
  • 見るべきは政策金利の水準ではなく、決算に出てくる預貸金利回り差、預金の量と構成、与信関係費用、そして手数料収益の比率。

「預金金利が3倍」という一つの事実は、預金者にとっては受け取る利息の増加であり、銀行にとっては仕入れ値の上昇です。どちらが正しいかではなく、自分がどちらの側に立って読んでいるかを意識できるかどうか。それが、この種のニュースを毎回自分で判断できるかどうかの分かれ目になります。

預金者として喜ぶことと、株主として警戒することは、両立します。むしろ両方の目を持てたときに、はじめてニュースは情報になります。数字を追いかける前に、その数字が損益のどの項目に効くのかを一段だけ分解してみる。手間はかかりますが、この習慣は次のニュースでも、その次のニュースでも使えます。

読む力は、覚えた結論ではなく、分解する習慣から生まれるのだ。


本記事は公開情報をもとにした解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。