「3勝7敗」は、いったい何を数えた数字なのか

2026年8月27日、日本経済新聞が「GPIF、過去10年は『3勝7敗』 積極運用の成果見えず」と報じました。GPIF——年金積立金管理運用独立行政法人は、私たちの公的年金の積立金を運用している組織です。その積極運用が10年で3勝7敗と言われれば、たいていの人は「負け越したのか」と受け取ります。

ただ、この見出しは肝心なことを言っていません。何をもって1勝で、何をもって1敗なのか。その1勝と1敗は、同じ重さなのか。

勝敗表は、運用の成績表としていちばん直感的です。そして同時に、いちばん情報が落ちる要約でもあります。10年ぶんの数字を、勝ちか負けかの2種類に潰してしまうからです。

勝敗表は、成績の「幅」を捨てた要約なのだ。

この記事はGPIFを叩くためのものでも、擁護するためのものでもありません。誰でも報告書を開ける巨大な実例を借りて、「ベンチマークに勝った・負けた」をどう数えるべきかという道具を整えます。それはそのまま、私たちが自分の投資信託を評価するときの物差しになります。

GPIFはまず「市場そのもの」を買っている

前提の確認から始めます。GPIFは、長期の資産構成割合をあらかじめ決めた「基本ポートフォリオ」に沿って運用しています。現在は国内債券・外国債券・国内株式・外国株式の4資産に25%ずつという配分で、2020年4月にこの4資産均等へ移行し、2025年4月から始まった期でも維持されています。

以前からこうだったわけではありません。2014年10月の時点では国内債券35%、外国債券15%、国内株式25%、外国株式25%でした。国内金利の低下によって国内債券の魅力が落ち、その分が外国債券へ振り替わった格好です。

その4資産のそれぞれに「ベンチマーク」が定められています。ベンチマークとは、運用の出来を測るためにあらかじめ決めておく物差しの指数のことです。GPIFの用語集では、4資産のベンチマーク収益率を基本ポートフォリオの割合で加重平均したものを「複合ベンチマーク収益率」と呼び、資産全体の運用成果を評価する基準に使う、と説明されています。

そして運用の大半は、その指数と同じ中身を持って市場平均並みの成績を目指す「パッシブ運用」です。2025年3月末時点で、国内株式はパッシブ95.4%に対してアクティブ4.6%、外国株式はパッシブ82.2%に対してアクティブ17.8%とされています。

株式の運用の大部分は、市場そのものを丸ごと買っているに等しくなります。2024年度末には4資産合わせて1万8,446銘柄に分散していたと説明されており、規模も桁違いです。運用資産額は2026年度第1四半期末で317兆7,596億円、2001年度の市場運用開始からの累積収益額は221兆201億円、収益率は年率プラス4.95%となっています(いずれも運用手数料等の控除前)。

そのうえで一部にアクティブ運用——市場の非効率な面に着目して銘柄を絞り込み、指数を上回る収益を狙う運用——を混ぜています。厚生労働大臣が定めたGPIFの中期目標は、パッシブ運用とアクティブ運用を併用したうえで「アクティブ運用については、過去の運用実績も勘案し、超過収益が獲得できるとの期待を裏付ける十分な根拠を得ることを前提に行うこと」と書いています。

だから「3勝7敗」の勝ち負けは、儲かったかどうかの話ではありません。市場平均という物差しに対して、どれだけ上振れたかの話である。

「1勝」の重さは、年によってまるで違う

ここからが本題です。勝敗の数え方には、決定的な癖があります。

年ごとの超過収益率——ベンチマークをどれだけ上回ったか、下回ったかの差——を取り出し、そのプラスかマイナスかという符号だけを見て数えます。それが勝敗表です。わずかに上回った年も、大きく上回った年も、等しく1勝と数えます。わずかに下回った年も、大きく下回った年も、等しく1敗です。

目盛りの違う勝ちを、同じ「1」として足しているわけです。

これは机上の理屈ではありません。GPIFの初期の実績に、そのまま当てはまる期間があります。ニッセイ基礎研が2008年5月に公表したレポートは、GPIFの市場運用分について、時間加重収益率と複合ベンチマーク収益率を年度別に並べています(時間加重収益率とは、資金の出入りの影響を除いて運用の巧拙を測る収益率のことです。なおGPIFの発足は2006年で、それ以前は年金福祉事業団や年金資金運用基金といった前身組織が運用を担っていました)。

超過収益率は、2002年度がマイナス0.19%、2003年度がプラス0.42%、2004年度がマイナス0.13%、2005年度がプラス1.24%、2006年度がマイナス0.08%です。符号だけを数えれば2勝3敗、堂々の負け越しになります。

ところが、話はそこで終わりません。同じ5年間を年率でならすと、運用側が5.22%、複合ベンチマークが5.00%となり、超過収益率はプラス0.22%です。

負け越しているのに、累積では勝っている——同じ5年に、正反対の顔が二つあるのだ。

からくりは単純です。2005年度のプラス1.24%という一発が、他の年に出た小さな負けを丸ごと吸収してしまいました。勝敗表は、この1.24%という数字の大きさを見ていません。ただ「1勝」と数えるだけです。

逆も同じように起こります。8勝2敗でも、2回の負けが大きければ累積はマイナスになりえます。だから、最初の物差しはこうなります。勝率ではなく、累積で見ることです。

超過リターンは「大きさ」と「ブレ」の両方で読む

累積で見る、まで来たら、その次があります。同じ超過リターンを年率で平均しても、毎年きっちり同じ幅を積んだ結果なのか、大きなプラスと大きなマイナスを行き来した末の平均なのかで、意味はまるで違います。

前者は再現性のある腕前に見えます。後者は、たまたま良い年に大きく当てただけかもしれません。

この違いを1つの数字にしたのが「インフォメーション・レシオ」、日本語では情報比や情報レシオと呼ばれる指標です。GPIFの用語集はこう定義しています。運用ポートフォリオのベンチマークに対する超過収益率を、超過収益率の標準偏差(トラッキングエラー)で割った比率である、と。

言い換えれば、ベンチマークからのブレを1単位引き受けて、そのお返しにどれだけ超過を取れたか。ブレの割に超過が大きいほど、数値は高くなります。

数式が苦手でも構いません。年金分野の用語集が挙げている例が、いちばん早い理解になります。トラッキングエラーが4%、超過収益が2%のファンドなら、2%÷4%で情報比は0.5です。この数値が大きいほど、リスク1単位あたりの超過収益が高いことを示す、と説明されています。

読み方のコツは、単独で見ないことです。ある運用会社の解説は、トラッキングエラーが大きいのに情報比やアルファ(市場の動き以外で生み出した超過分)が長期間マイナスというケースを、注意が必要なサインとして挙げています。

ベンチマークから大きく離れた独自のポートフォリオを組んでいるのに、それがプラスのリターンに結びついていません。そういう組み合わせは、独自の判断が裏目に出ている可能性を示唆する、という読み方です。

ただし、この指標も万能ではありません。GPIFが実績連動報酬の仕組みを見直したときの検討過程では、報酬をインフォメーション・レシオに連動させる案が検討されたものの、リスクテイクを促す方向に動機づけるほうが超過収益への取り組み強化が期待できるとして、「過度にインフォメーションレシオに着目する必然性はない」という結論になったと記録されています。

指標は物差しであって、目的ではありません。ここから私たちが持ち帰れる含意は、ひとつです。短い期間の勝ち負けは、運の幅に埋もれる。

コスト控除後でなければ、勝敗は意味を持たない

三つ目の物差しはコストです。そしておそらく、個人にとってはこれがいちばん効きます。

まずGPIFの側を見ます。ある解説によれば、GPIFは約250兆円を運用しながら、手数料率は0.01%、金額にして373億円だと紹介されています。373億円という絶対額は大きく見えますが、運用資産の規模を思えば異例の低さです。

なぜ低いのか。運用の大半が、指数に追随するだけで済む安いパッシブ運用だからです。GPIFの用語集はパッシブ運用の前提をこう書いています。市場は効率的であり、情報の収集・分析等のコストを支払って機動的に運用しても継続的な超過収益は得られない、という考え方である、と。

対して、私たちが買う投資信託はどうでしょうか。信託報酬——投信を持っている間ずっと差し引かれ続ける手数料——の相場は、純資産総額に対して年率0.5%から2.5%程度とされます。インデックス301Aファンドは0.1%から0.3%程度に抑えられることが多く、アクティブファンドは1.0%から2.0%程度になることが多い、という整理です。

裸の数字では手触りが出ないので、時間を通した金額に置き換えます。ある試算は、元本100万円を年5%で回すという同じ条件で、信託報酬1.5%のアクティブファンドと0.2%のインデックスファンドを比べています。10年後の概算はそれぞれ約141万円と約160万円で、同じ市場環境でもコストの差だけで約19万円ひらく計算です。

別の試算はもっと直截です。500万円を利回り3%で10年運用したとき、信託報酬が年0.5%なら約640万円、年2.0%なら約552万円で、差は約90万円になります。

ここに、この記事の核心があります。超過リターンは不確実なプラスですが、信託報酬は確実なマイナスです。相場が上がろうが下がろうが、毎年必ず引かれます。勝敗表がコスト控除前の数字で作られていれば、それは実際より甘い成績表を見ていることになります。

だから同じ「3勝7敗」でも、手数料率0.01%の世界と年率1.5%の世界では、負けの重さがまるで違うのだ。

GPIF自身、この点には自覚的です。GPIFの調査数理室長が実績連動報酬の見直しについて書いた論考は、「GPIFとしては、基本的にパッシブ運用のみで年金財政上の運用目標を達成することができ、アクティブ運用はあくまでも超過収益の確信がある場合のみ実施すればよいものである」としたうえで、「成果の出ないアクティブ運用に対して多額の報酬を支払うことについては抵抗感が強い」と書いています。

そして基本報酬率は、運用受託機関のコスト構造とは無関係に、代替手段であるパッシブ運用の手数料水準が適切だと結論づけています。払う側が、成果の出ない積極運用に高い報酬を払うのはおかしいと明言しています。その姿勢は、私たちが自分の投信に向ける目としても借りられるはずです。

それでもアクティブ運用を持つ意味があるとしたら

ここまでを読むと、アクティブ運用は分が悪く見えるかもしれません。ただ、超過リターン狙いだけがアクティブの役割ではない、という論点も並べておく必要があります。

分かりやすいのが、GPIFのオルタナティブ資産です。オルタナティブ資産とは、上場株式や債券といった伝統的な資産とは異なる値動きの性質を持つ投資対象のことで、GPIFの場合はインフラストラクチャー、プライベート・エクイティ、不動産を指します。2013年度から投資を始め、資産全体の5%を上限として運用しています。

規模は、まだ小さいものです。オルタナティブ資産全体の時価総額は2025年3月末で4兆1,877億円、年金積立金全体に占める割合は1.63%でした。2026年3月末には5兆2,067億円、1.74%になっており、うちインフラ資産は2兆4,643億円で0.82%です。

GPIFがこれを持つ理由は、超過収益だけではありません。伝統的資産とは異なるリスク・リターン特性を持つため、ポートフォリオに組み入れることでリスク分散効果が期待できるからだと説明されています。

加えて、流動性の低さ——すぐに売り買いできないこと——を引き受ける代わりにプレミアムを得る、という発想も示されています。GPIFは長期の投資家であり豊富な流動性資産を持つからこそ、あえて流動性の低い資産を組み入れられる、という論理です。

実際の成果として、投資開始以来のインフラ投資の内部収益率(IRR、投資期間を通じてならした利回り)は円ベースで10.80%と公表されています。もっとも、内訳を見ると海外資産の米ドルベースは5.61%、ユーロベースは4.72%、国内資産の円ベースは3.78%となっています。為替の下駄を脱がせると、見え方は変わるということです。

コストの重さも忘れてはいけません。オルタナティブ投資の運用委託手数料は、いわゆる「2・20」——基本2%に成功報酬20%——と言われる水準です。伝統的資産の手数料とは桁が違います。

つまり、アクティブ運用を持つ理由が「指数に勝ちたいから」だけなら、勝敗表よりコストの確実性のほうが効きやすくなります。一方、値動きの性質そのものを分散させたいという理由なら、話は別の物差しに移ります。目的が違えば、測る道具も違うということです。

そう考えると、「積極運用の成果見えず」という評価の読み方も変わってきます。これは成果が無かったという断定ではありません。10年という期間と、勝ち負けという二値の物差しでは見えない、という意味に読み替えられます。

見えないことと、無いことは違う。

私たちが明日からできること

では、私たちに何ができるのか。投資信託を持っている人、これから選ぶ人が手元でできることは、三つに整理できます。

一つ目は、自分の投信のベンチマークが何かを確認することです。目論見書や月次レポートに必ず書いてあります。ベンチマークを知らずに「上がった・下がった」だけを見ていると、そもそも勝ち負けの土俵が分かりません。

二つ目は、単年の順位ではなく、設定来や10年の累積でベンチマークとの差を見ることです。「今年は勝った」の積み上げでは、幅を捨てた勝敗表と同じ間違いを繰り返すことになります。

三つ目は、その累積の差が信託報酬の何倍かを見ることです。10年ぶんの累積超過が信託報酬の1年分にも届かないなら、差し引きは残りません。確実なマイナスを不確実なプラスが上回っているかどうか——判断はそこに集約されます。

この作業は特別な道具を必要としません。GPIFは業務概況書とあわせて、「各資産の超過収益率の状況(直近10年間)」「パッシブファンド及びアクティブファンドの割合の推移」「管理運用委託手数料」「運用受託機関等別運用資産額・実績収益率及び支払手数料他各種データ」といった資料をExcel形式で公開しています。この記事でやったことは、誰でも同じようになぞれます。

そして、勝敗という物差しは私たちの身近にもあります。ある証券会社は「インデックスに本当に勝ったアクティブファンドは?」というランキングを毎月更新し、勝率98%、57%、43%といった数字を並べています。数え方を知らずにこの列だけを見れば、印象は簡単に動くでしょう。

見出しは、私たちの代わりに要約してくれる便利な道具です。ただ、要約は必ず何かを捨てています。捨てられたものが幅なのか、コストなのか、期間なのか——そこまで戻れるかどうかが、投資の教養と呼ばれるものの中身ではないでしょうか。

3勝7敗という短い言葉の裏側に、何が畳み込まれているか。それを開いて見る習慣が、私たちの側の武器になります。


本記事は公開情報をもとにした解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。