1. 「2倍」と書いてあるのに2倍にならない

半導体メモリー大手キオクシアホールディングス285Aの株価に連動するレバレッジ型ETF(上場投資信託)について、複数の米運用会社が米金融当局に承認を申請しました。日本経済新聞(ニューヨーク=竹内弘文)が2026年8月に伝えています。日本で認められていない個別株連動のレバレッジ型ETFが、米国経由で「逆上陸」する可能性がある、という話です。

Bloombergの報道によれば、準備が進んでいるのは少なくとも9本。発行元にはタトル・キャピタル、グラニットシェアーズ、コーギ・ストラテジーズなどが名を連ねています。実現すれば、日本企業が単一銘柄レバレッジ型ETFの原資産となる初のケースになります。

ただし、承認されるかどうかはこれからです。日経は「ADR非上場、SEC承認が焦点に」と書いています。タトル・キャピタルの商品は早ければ2026年8月にも上場する予定と報じられていますが、上場の可否も、時期も、日本に持ち込まれるかどうかも、いずれも未確定です。

この記事では、個別の銘柄が上がるか下がるかは一切扱いません。代わりに、多くの個人投資家が取り違えている一点だけに的を絞ります。レバレッジ型ETFの「2倍」は、期間の約束ではないという点です。

コーギ・ストラテジーズがSECに提出した目論見書には、こう書かれています。「The Fund does not seek to achieve its stated investment objective over a period of time greater than one trading day.」——1営業日を超える期間については、掲げた投資目標の達成を目指してはいない。

「2倍」は、1営業日だけの約束である。

2. 「日次2倍」という契約——なぜ毎日リバランスするのか

まず、この商品が何を約束しているかを正確に読みます。コーギの「Kioxia 2x Daily ETF」は、東証プライム上場のキオクシア株(TYO: 285A)の日次のパフォーマンスの2倍に相当する日次の投資成果を目指す、と書かれています。目標は「daily」——1日単位です。

作り方も開示されています。タトル・キャピタルが5月22日にSECへ提出した予備目論見書(Form 485APOS)によれば、純資産の少なくとも80%を、2倍のエクスポージャーを作るための金融商品に投資し、スワップ契約を通じてキオクシア株の日次リターンの200%を追随するとされています。スワップ契約とは、値動きの損益だけを相手方とやり取りする約束のこと。株そのものを2倍分買い集めているわけではありません。

この「1日で2倍」を保ち続けるために、ファンドは毎日ポジションを建て直します。レバレッジ型ETFの解説では、こう説明されています。各取引日の引けで、翌日がちょうど新しい基準価額(ファンド1口あたりの値段)の2倍から始まるようにエクスポージャーがリセットされる、と。

ここが、多くの人が絵として思い浮かべていない部分です。値上がりした日は、増えた資産に見合うだけエクスポージャーを買い増す必要があります。値下がりした日は、減った資産に合わせて売らなければなりません。

韓国市場では、この機械的な売買がそのまま問題になりました。個別株レバレッジ型ETFは毎日の大引け前に大規模なリバランス取引を実行する必要があるため、「上げ相場では買い、下げ相場では売り」という順循環的なメカニズムが働き、市場関係者からは変動を激化させる元凶と指摘された、と報じられています。

つまり、この商品には裁量がありません。値動きを追いかける方向にしか、注文は出ないのだ。

ただし、これは常に不利に働くとは限りません。原指数が一方向に上がり続ける局面では、複利が味方します。国内の運用会社が示す例では、日経平均株価が1日目+5%、2日目+10%と上昇した場合、基準日からの変動率は日経平均が+15.5%(100→115.5)に対し、日経平均レバレッジ・インデックス301Aは+32%(100→132)。2倍より大きくなります。逆に1日目-5%、2日目-10%と下げ続けた場合は、日経平均が-14.5%(100→85.5)に対し、レバレッジ指数は-28%(100→72.0)。こちらは2倍より小さい下落です。

問題は、相場が一方向に進み続けてくれない日の方が多いという、身も蓋もない事実の側にあります。

3. 往復すると減る——ボラティリティ・ディケイを自分で計算する

ここからは電卓を出してください。使う値動きは、説明のための仮の値です。実在する銘柄の実績ではありません。

米国の証券法律事務所が示す2日間の例が、いちばん素直です。仮想の株と、それに連動する2倍ETF。どちらも100ドルから出発します。

1日目、株は10%上がって110ドルになります。2倍ETFは20%上がって120ドルです。ここまでは、期待どおりの「2倍」です。

2日目、株は110ドルから9.09%下がり、ちょうど100ドルに戻ります。2倍ETFはその2倍の18.18%下落。120ドルの18.18%が引かれて、98.18ドルになります。

株は出発点ちょうどに戻りました。2倍ETFは1.82%のマイナスです。原資産が結局どこにも行かなかった2日間で、2倍ETFだけが目減りしました。これがボラティリティ・ディケイ——上下動そのものが基準価額を削る現象です。いわば、往復のたびに取られる通行料。

ちなみに「+10%のあと-10%」という、よく見かける例には小さな落とし穴があります。その場合、比べる相手である原資産自身も出発点に戻り切りません。基準がぶれると、ETF側の目減りだけを取り出せなくなります。だから上の例では、株がぴったり100ドルへ戻る-9.09%を使いました。

倍率を上げれば比例して悪化する、という直感も外れます。同じ2日間で、原資産がフラットに終わるとき、2倍ETFは1.82%のマイナス、3倍ETFは5.45%のマイナスになるとされています。複利は線形ではありません。

順番を入れ替えても結果は残ります。海外の解説では、S&P500が100→95(-5%)→100(+5.26%)と下げてから戻る場合、2倍ETFは100→90→99.47。先に上げて下げる100→105(+5%)→100(-4.76%)の場合は、2倍ETFは100→110→99.53。どちらの経路でも、原資産が戻ったのにETFは戻りません。

原資産が出発点に戻っても、2倍ETFは戻らない。

往復が増えるほど、差は開きます。ある運用会社の説明では、10日間の細かい上下を経た結果、原資産は約0.2%のマイナスにとどまるのに対し、レバレッジETFは0.8%のマイナス——2倍どころか、それを超える削られ方になります。

現実の相場では、もっと極端なことが起きます。FINRA(米金融業規制機構)が挙げた例では、2008年12月1日から2009年4月30日にかけて、ラッセル1000金融サービス指数の日次3倍を目指すレバレッジETFが53%下落した一方、原指数そのものは約8%上昇していました。指数は上がったのに、それを3倍で追うはずの商品は半分になったのです。

2022年の記録も残っています。ナスダック100連動のQQQが年間-32.6%だったのに対し、3倍のTQQQは-79.9%。単純な3倍の理論値-97.8%よりは傷が浅かったものの、トレンドがはっきり出た年でさえ、レバレッジ商品は理論倍率どおりには動きませんでした。

4. 上下動が大きいほど減る——なぜ単一銘柄だと効きが強いのか

年率ボラティリティ別の目減り(2倍ロング型)。10% マイナス1.0%、25% マイナス6.0%、50% マイナス22.1%、75% マイナス43.3%、100% マイナス63.8%

第3章の目減りは、原資産の振れ幅が大きいほど大きくなります。関係は、目論見書の中に表として載っています。

グラニットシェアーズがSECに提出した書類には、原資産のリターンがゼロだった1年間に、2倍レバレッジ・ロング型ファンドがいくら失うかの試算が並んでいます。年率ボラティリティ(1年間の値動きの荒さを標準的な尺度で表したもの)が10%なら-1.0%。25%なら-6.0%。50%なら-22.1%。75%なら-43.3%。100%なら-63.8%です。逆方向の-2倍インバース型は、同じ条件でそれぞれ-2.9%、-17.0%、-52.7%、-81.8%、-95.3%。この表は複利の影響を切り出すためのもので、実際のリターンを示したものではないと注記されています。

読み方は単純です。原資産が1年かけてどこにも行かなかったとしても、荒いほど削られます。しかも、振れ幅が増えたぶんだけ目減りが増える、という素直な関係にはなっていません。ここでも複利は線形ではないのです。

では、なぜ単一銘柄だと効きが強くなるのか。分散が効かないからです。

通常のETFの値動きは、保有している個別銘柄の値動きの、保有比率に応じた加重平均になります。ある銘柄が上げ、別の銘柄が下げれば、指数の中で互いに打ち消し合います。ところが単一銘柄型は、その打ち消しが起きません。米国のレバレッジ型・インバース型の単一株ETFについて、証券会社の解説はこう書いています。単一の株価を追跡するため、他の多くのETFとは異なり、分散投資の効果はない、と。

一社の決算、受注、規制、需給——そのすべてが、均されずに日々の振れ幅として出てきます。実際、キオクシアホールディングスは東京市場で一時16%急落した日がありました。前日の米国市場でSanDiskが12%、マイクロン・テクノロジーが5%超下落した流れを引き継いだ場面です。

参考までに、指数側の荒さも見ておきます。過去3年の指数リスク・リターン分析(2022年12月30日時点)では、NASDAQ100の平均リターンが18%でリスクが32%。日経平均レバレッジ・インデックスはリターン1.51%に対してリスク43.53%とされています。すでに指数連動のレバレッジ商品でも、振れ幅は小さくありません。そこから分散の網を外したものが、単一銘柄レバレッジ型ETFです。

米SECのクレンショー委員(当時)は2022年の声明で、単一銘柄ETFは「高い水準のリスク」を伴うと述べています。シュワブ金融調査センターでETF・インデックスファンド調査を統括するエミリー・ドーク氏も、「単一銘柄ETFはボラティリティがすべてだ」「これらのETFは、ごく短期間で極端な損失を生む可能性がある」と説明しています。

打ち消し合う相手が、いないのだ。

この構造は、原資産の側にも跳ね返ります。日次リバランスに伴う機械的な売買は、流動性が限られた銘柄の株価変動を増幅させるおそれがある、と指摘されています。韓国では実際にそれが起きました。KOSPI指数が1日で6.37%急落した「暗黒の木曜日」では、SKハイニックスが11%超、サムスン電子が9%近く下落。背景には、メモリー価格上昇期待の後退や韓国銀行の3年半ぶりの利上げ(政策金利2.50%→2.75%)に加えて、個別株レバレッジETFの順循環的な売り圧力が下げを増幅したことがあった、と報じられています。

5. 見えないコストはどこに書いてあるか

米国単一銘柄レバレッジ型ETFの経費率。テスラ2倍のTSLL 0.83%、エヌビディア2倍のNVDX 1.05%、AMD2倍のAMDL 1.07%、エヌビディア2倍のNVDL 1.15%

ここまでの目減りは、費用をまったく引く前の話です。実際には、そこにコストが乗ります。

一つ目は、運用管理費用(信託報酬・経費率)です。米国の単一銘柄レバレッジ型ETFでは、テスラ2倍のTSLLが0.83%、エヌビディア2倍のNVDXが1.05%、AMD2倍のAMDLが1.07%、エヌビディア2倍のNVDLが1.15%といった水準が公表されています。指数型でも、S&P500を3倍にするUPROが0.92%、ナスダック100を-3倍にするSQQQが0.95%。この水準の重さは、数日持つなら小さく、1年持つなら小さくありません。

二つ目は、レバレッジを作るための費用です。レバレッジ型ETFは、先物やスワップを使って倍率を作ります。先物を使う商品では、期限(限月)が来るたびに次の限月へ乗り換える必要があり、その価格差によって減価していくものがあると、国内証券会社の説明資料は書いています。ロールオーバーコストと呼ばれる、乗り換えのたびに落ちる粉のようなものです。

三つ目は、取引相手方のリスクです。指標への連動を目的としたリンク債に投資していたり、店頭(OTC)デリバティブ取引を行っていたりする商品には、その発行者や取引相手方が破綻するリスクがあると明記されています。値動きが読めていても、相手が飛べば話は別になります。

これらはすべて、基準価額から日々差し引かれます。だからチャートを眺めているだけでは、どれが相場でどれが費用なのか、切り分けられません。

コストは、チャートの外側で引かれている。

では、どこを開けば書いてあるのか。国内商品なら、各運用会社のホームページにある投資信託説明書(交付目論見書)です。証券会社の資料は、レバレッジ型・インバース型ETFの基準価額の変動要因などの投資リスクは交付目論見書の「投資リスク」から確認でき、ETNの場合は目論見書の「投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項」から確認できると案内しています。

費用の比較にも、公的な入り口があります。日本取引所グループ8697のホームページの「銘柄一覧(レバレッジ型・インバース型商品)」のページで、対象指標が同じ商品の運用管理費用(信託報酬)を比較できるとされています。

販売時に交付される「重要情報シート」も使えます。項目は決まっていて、「2 リスクと運用実績」「3 費用」という並びで、本商品は円建ての元本が保証されず損失が生じるリスクがあること、購入または保有には費用が発生することが書かれています。読む場所は、あらかじめ決まっているのです。

6. 日本の投資家が今日から確認できること

米国の申請の行方を待つ必要はありません。東京証券取引所には、すでにレバレッジ型・インバース型の商品が上場しています。NF・日経レバETF(1570)、NF・日経インバETF(1571)、NF・日経ダブルインバETF(1357)、NF・JPX400ダブルインバETF(1472)、NF・JGB先物ダブルインバETF(2251)。米国株指数を対象にした上場インデックスファンドS&P500先物レバレッジ2倍(2239)もあります。この2239のファンドの特色には、米国の株価指数先物の買建玉の時価総額が純資産総額に対して約2倍程度になるよう「日々調整」を行なうと書かれています。ここでも鍵になる語は「日々」です。

手元で確認できることを、四つに整理します。

  • 目論見書の中で「日々の」「1日の」という限定がどこに書かれているかを探す。国内商品の説明では、レバレッジ指標の上昇率・下落率は2営業日以上の期間になると原指数の一定倍率とは通常一致せず、それが長期にわたり継続することで期待した投資成果が得られないおそれがある、と明記されています。
  • 連動対象の指数または銘柄が、どれくらい荒いかを見る。第4章の表のとおり、目減りの大きさは振れ幅で決まります。単一銘柄なら、分散による打ち消しは働きません。
  • 経費率と、レバレッジの作り方(先物かスワップか)を確認する。先物ならロールオーバーの減価、スワップなら取引相手方の破綻リスクが、それぞれリスクの欄に書かれています。
  • 保有期間の想定を、買う前に自分で決める。日をまたぐ前提なら、往復の通行料を織り込んでおく必要があります。

制度そのものが動く可能性も、頭の片隅に置いておきたいところです。韓国では金融委員会が緊急対応として、新規の個別株レバレッジ型ETF・ETNの上場申請受付を即日停止し、最低証拠金基準を1,000万ウォン(約110万円)から3,000万ウォン(約330万円)へ引き上げ、担保を現金のみに限定しました。義務研修時間は2時間から3時間へ、最低取引単位は1株から20株へ変更し、関連商品の広告活動は全面的に禁止されています。規制の緩い場所へ資金が逃げる「風船効果」を防ぐため、海外上場の単一銘柄レバレッジ商品にも同じ基準を適用する方針だとも報じられています。

では、私たちに何ができるのか。相場を当てにいく前に、契約書を読むことです。レバレッジ型ETFの目論見書には、日次の目標であることも、1日を超えれば各日のリターンの複利になることも、すべて書かれています。米国の解説記事は、その状況をこう書いています。「数式は開示されている。隠されてはいない。ただ、読み飛ばしやすいだけだ」。

保有期間を先に決め、その期間に見合う商品かどうかを費用とボラティリティの側から点検する。それが、この種の商品と付き合うときの最初の手順になります。

上場するのか、いつなのか、日本に来るのか。そこはまだ誰にも分かりません。分かっているのは、商品の設計だけです。そして設計は、承認より先に読めます。


本記事は公開情報をもとにした解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。第3章の数値例は説明のための仮定値であり、実在する銘柄の実績を示すものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。