事業モデル
SAAFホールディングスは「Support As A Foundation(土台として支える)」を社名の由来とするホールディングカンパニーであり、4つの事業セグメントを中核に官公庁・地方自治体・民間企業等へサービスを提供している。第1の柱であるコンサルティング事業では、子会社ITbook株式会社を通じてITコンサルティング・自治体DX支援・地方創生支援・ICT関連業務を展開しており、公共部門向け案件を主力としている。第2の柱はシステム開発事業で、東京アプリケーションシステム株式会社・コスモエンジニアリング株式会社等が業務システム開発、アプリケーション開発、電子認証サービス、建設テック(ジオサイン株式会社)を担う。
第3の柱である人材事業では、株式会社イストや株式会社アイニード、NXTech株式会社等を通じて人材派遣・技術者派遣・採用支援・研修サポートを提供しており、外国人労働者受入支援も手がけている。第4の柱は建設土木事業で、地盤調査・地盤改良工事の専門会社である株式会社サムシング(100%子会社)が中核を担い、戸建て住宅の地盤保証や沈下修正工事等も展開している。連結子会社19社を擁し、カンボジア・ベトナム・マレーシアの海外法人も保有するグループで、売上高約289億円(2025年3月期)のミドルキャップ企業である。
2024年9月に旧社名「ITbookホールディングス」から現社名に変更し、コーポレートブランドを刷新した経緯を持つ。
KPI
売上高は直近ピークの2023年3月期(305億円)から2年連続で微減し、2025年3月期は289億円(▲1.4%)となったが、2026年3月期予想では296億円(+2.5%)への回復が見込まれる。営業利益率は最重要KPIであり、2023・2024年3月期の2.4%台から2025年3月期には1.16%まで低下したが、2026年3月期は3.31%への大幅改善が予想されており、2026年4月28日には経常利益の上方修正(6.9億円→8.9億円)も発表された。自己資本比率は15.6%(2025年3月期)と低位安定しており、財務の健全性を示すKPIとして継続的な改善が求められる。
有利子負債は90億円超(有利子負債比率341%)と高水準であり、ネット有利子負債の圧縮がB/S改善の重要指標となる。フリーCF(FCF)は2025年3月期でマイナス13.4億円と大幅赤字となっており、投資活動のキャッシュアウト(16.5億円)が原因であるため、投資効率と回収期間がモニタリング対象となる。セグメント別には建設土木事業(サムシング)の受注件数・地盤調査棟数、コンサルティング事業の公共案件受注額、人材事業の稼働人員数・充足率が重要な先行指標となる。
配当は2026年3月期に予想1株4.5円(利回り約1.5%)を予定し、2025年3月期の無配から復配見通しとなっている点も株主還元KPIとして注目される。
成長ドライバー
第一の成長ドライバーは地盤調査・地盤改良事業(建設土木事業)の持続的需要拡大である。日本の住宅着工が底堅く推移する中、地盤調査の義務化(品確法・瑕疵担保履行法)によりサムシングの地盤調査・地盤改良受注は安定した需要を享受しており、住宅完成保証や地盤保証ビジネスにより受注後の継続収益も期待できる。第二の成長ドライバーは自治体DX・ICT支援のコンサルティング需要拡大である。
国や地方自治体がデジタル化を加速する中、ITbookは地方創生支援・ICTガバナンス構築支援において公共機関との長期関係を有しており、マイナンバー活用やDXコンサルに関する引き合いは中長期的に増加する見通しである。第三は人材事業における外国人労働者需要の拡大で、製造業・介護等における人手不足が構造的課題となる中、海外子会社(カンボジア・ベトナム・マレーシア)を活用した国際人材供給の仕組みは中長期的な差別化要因となり得る。第四として、2026年4月28日に発表した新中期経営計画「MTG2028」の骨子が今後の成長戦略を具体化するものとして注目される。
2026年3月期3Q累計では売上高220.9億円(前年同期比+4.4%)・営業利益5.64億円と業績モメンタムが改善しており、利益率の回復局面に入っている。
リスク
第一のリスクは建設土木事業の景気感応度であり、住宅着工件数の大幅な落ち込みは地盤調査・地盤改良の受注急減に直結する。金利上昇による住宅ローン需要の縮小は特に戸建て住宅向けビジネスに影響を与えるため、住宅市況の動向が最大のリスク要因となる。第二は人材・コスト面のリスクで、人件費・外注費の上昇が薄利構造(営業利益率1~2%台)に直撃するリスクがある。
2025年3月期の原価率上昇(74.14%→75.18%)はこのリスクが現実化した事例であり、収益圧迫に対する脆弱性が高い。第三はガバナンス・コンプライアンスリスクであり、2024年3月に金融庁から有価証券報告書等の虚偽記載に関する指摘(2022年3月期の不祥事)を受けた経緯があり、信頼回復が経営課題となっている。また2025年以降にアクティビスト株主(前俊守氏・フレンドリー8209・パートナーズ等)が重要提案行為を含む大量保有報告を行っており、2026年5月1日には株主による臨時株主総会の開催が発表されるなど経営安定性への懸念が継続している。
第四として有利子負債比率341%・自己資本比率15.6%という財務レバレッジの高さが挙げられ、金利上昇局面での財務負担増大リスクがある。海外子会社(カンボジア・ベトナム・マレーシア)における為替・政治リスクも副次的なリスクとして存在する。
競合
建設土木事業(地盤調査・地盤改良)においては、株式会社サムシングが業界内での一定の認知度を有するが、地盤ネットジャパンやデザインリンクスなど同業他社との競合が存在する。地盤調査は住宅着工に紐づく受注型ビジネスであり、施工エリア・ネットワーク・地盤保証の信頼性が競争優位の源泉となる。
コンサルティング事業では自治体DX・ICT分野において、NTTデータ・富士通6702・日立の大手SIer系や、コンサルティングファームとの競合が存在するが、ITbookは中小自治体向けの実績と価格競争力で差別化を図っている。人材事業においては、パーソルホールディングス2181やリクルートなど大手人材会社と競合するが、技能実習・特定技能外国人の受入支援分野では一定の専門性がある。
グループ全体として、各事業セグメントが官公庁・地方自治体向け公共ビジネスと住宅関連民間ビジネスに分散して競合リスクを分散しているが、いずれのセグメントも大企業との競争圧力にさらされており、スケールメリットの差が課題となっている。バフェット・コードによれば、時価総額73億円のマイクロキャップ企業として、競合他社比較では営業利益率・財務体質の改善余地が大きい。
バリュエーション
2026年4月30日時点の株価302円、時価総額約73億円(2025年3月期業績ベース)である。PERは予想ベースで17.53倍(予想EPS17.23円)、PBRは2.58倍(BPS117.24円)となっている。2025年3月期は純損失1.3億円(EPS▲5.28円)と赤字であったが、2026年3月期は純利益4.2億円(EPS予想17.18円)への大幅回復が見込まれており、2026年4月28日には経常利益をさらに上方修正(6.9億円→8.9億円)した。
同社の営業利益率は建設業としては極めて低い水準(2025年3月期1.16%)であり、利益率の改善が株価評価の鍵となる。2026年3月期に復配(1株4.5円)を予定しており、配当利回りは約1.5%となる。中期経営計画「MTG2028」の内容次第では業績・株価の再評価余地がある。
ただし自己資本比率15.6%・有利子負債比率341%という財務リスクや、アクティビスト株主との対立・ガバナンス不安が割引要因となっている。過去の株価推移では年度最高値が2024年3月期の422円、2025年3月期の360円と下落トレンドにあり、業績回復が持続するかどうかがバリュエーション正常化の条件となる。同業の地盤調査・改良会社や中小ITコンサル企業のPER水準との比較では、現状の17倍台は回復シナリオをある程度織り込んだ水準といえる。