事業モデル
ソラコムは「テクノロジーの民主化」をビジョンに掲げ、IoTプラットフォーム「SORACOM」の開発・提供を主事業とする。KDDI・NTTドコモ等MNOから通信回線を調達するMVNO事業者でありながら、クラウド上に独自のモバイル・コアをソフトウェアで構築することで、ハードウェア設備投資なしに低コストかつ高拡張性のIoT通信サービスを実現している。収益は「リカーリング収益(プラットフォーム利用料)」「商品販売」「その他」の3区分で構成され、通信サービス・ネットワークサービス・アプリケーションサービスの従量課金型リカーリング収益(FY2025: 65.6億円、前年比21.9%増)が事業の根幹を成す。
顧客はスタートアップから大企業まで幅広く、セルフサービスモデルで1回線から契約可能な敷居の低さが特徴。FY2025末時点で課金アカウント数8,800、国内外含む契約回線数は2026年1月に900万回線を突破し、世界207以上の国・地域でサービス提供中。KDDI(持株比率44.4%)との業務提携により「IoT世界基盤」向けプラットフォーム提供・技術開発支援も行う。
連結子会社としてSoracom Global,Inc.(米国)、SORACOM CORPORATION,LTD.(英国)、キャリオット(国内・AI車両管理)、ミソラコネクト(AIチャットボット)を持ち、グローバル展開とAIoT(AI×IoT)サービス拡充を進めている。
KPI
最重要KPIはリカーリング収益(FY2025: 65.6億円、FY2026Q3累計: 66.1億円・前年同期比38.2%増)、課金アカウント数(FY2025末: 8,800件、前年比8.6%増)、ARPA(FY2025: 760千円/アカウント、前年比10.5%増)の3指標で、経営陣がこれらを最優先管理指標に設定している。契約回線数は2026年1月に900万回線を突破しており、売上成長の先行指標として重視される。
FY2026Q3累計の売上高は84.2億円(前年同期比47.6%増)で大幅増収を達成し、通期業績予想を上方修正して売上122億円・リカーリング収益91億円(前年比38.7%増)・EBITDA12.1億円(同45.1%増)を見込む。海外売上高比率はFY2025に41.8%(前年比5.4pt増)に達し、米国事業はFY2026Q3で前年同期比80%超の高成長を記録している。
営業利益率はFY2025に7.3%(FY2024の9.2%から低下)と成長投資フェーズを反映するが、FY2026通期予想では6.8%を維持する計画。自己資本比率74.5%と財務健全性も高く、現金及び預金89.2億円を確保している。
成長ドライバー
第一の成長ドライバーは海外事業、特に米国市場の急拡大で、FY2026Q3時点で前年同期比80%超の高成長が続いており、複数キャリア対応による全米展開の優位性が顧客獲得を加速させている。第二は生成AI(GenAI)とIoTの融合「AIoT」戦略で、SORACOM Flux(ノーコードIoTアプリ構築)、SORACOM Harvest Data Intelligence(AI時系列データ分析)など新サービスがARPA向上と差別化に寄与している。
第三はM&Aによる事業拡大で、FY2025にミソラコネクト(AI社内問い合わせ対応)を連結化し、連結では回線数900万突破に貢献した。第四はエコシステムパートナーの拡大とネットワーク効果で、導入実績がセールスレファレンスとなり新規顧客獲得コストを低下させる好循環が形成されている。
第五はIoT需要自体の構造的成長で、労働力不足・省力化・脱炭素化・スマートファクトリー化といった日本の社会課題解決需要がIoT導入を後押しし、スマートメータリング(エナジー宇宙向けが売上の10.7%)、九州旅客鉄道9142車両データ分析など幅広い産業での事例が積み上がっている。第六はKDDIとの「IoT世界基盤」協業拡大で、KDDIグループ経由の回線拡大と新規事業開発が売上に継続的に貢献している。
リスク
最大のリスクは特定顧客依存で、エナジー宇宙(日本瓦斯8174子会社)とKDDIが各々売上の約10.7%・10.6%を占め、これら取引先の事業変動が業績に直接影響する。クラウド依存リスクとしてAWSに対するシステム依存度が極めて高く、AWSの障害・サービス停止が事業継続に深刻な影響を与える可能性がある。通信回線の調達リスクとして、MNOから調達する回線の一部は代替困難であり、調達コスト上昇や供給障害が収益性を毀損しうる。
競争リスクとして、大手MNO・MVNO・グローバルIoTプラットフォーマー(AT&T、Twilio、AWSなど)との競争激化が常に存在し、当社の技術優位性が陳腐化するリスクもある。法規制リスクとして、電気通信事業法の登録失効リスク、各国の通信・データ規制(GDPR等)への対応コスト増大が懸念される。為替リスクとして海外売上41.8%に達する中、円高進行が業績に与える影響が増大している。
海外販管費の先行投資継続により販管費率が48.7%(FY2025)と高水準で推移しており、投資回収の遅延が収益性を圧迫するリスクも存在する。また、半導体・電子部品の調達不安定性がSIM・デバイスの供給制約となりうる。
競合
国内IoT通信市場では、KDDI・NTTドコモ・ソフトバンク9434等のMNOが大規模顧客向け個別開発型IoTを展開しているが、ソラコムは「自分でできる・安い・1回線から」のセルフサービス型プラットフォームで明確な差別化を図っている。MVNOとしては、IIJmio・mineo等があるが、IoT特化のプラットフォーム機能の深さと180カ国以上のグローバルカバレッジでは比較優位がある。グローバルでは、Twilio(通信PaaS)、AWS IoT、Microsoft Azure IoT Hub、AT&T IoT、Tele2 IoT等が競合するが、ソラコムはCounterpoint Research「2026年IoTコネクティビティマネジメントプラットフォームランキング」でも高評価を受けており、日本発のグローバルプレーヤーとして認知を高めている。
クラウド上の独自モバイルコアに関する70以上の特許がMOATを形成しており、エコシステムパートナー(国内外多数)の存在がネットワーク効果を生み出す参入障壁となっている。KDDIが44.4%を保有する株主構造は競合リスクを内包する一方、「IoT世界基盤」提供パートナーとしての協業関係が維持されており、短期的な競合関係の顕在化リスクは限定的と評価される。
バリュエーション
2026年5月1日時点の時価総額は446億円、株価979円。FY2026通期予想EPS13.38円に対しPER73.15倍、PBR4.15倍と高成長銘柄として高いバリュエーションが付与されている。過去のPERレンジはFY2024: 103〜313倍、FY2025: 103〜313倍と、収益のボラティリティが大きい中での成長期待織り込みが特徴だ。
FY2026Q3の大幅増収増益(売上+47.6%、営業利益+422.9%)により通期予想を上方修正した結果、株価はFY2025通期比で評価改善が進んでいる。リカーリング収益が91億円(通期予想)、EBITDA12.1億円(同45.1%増)に向かって収益性が改善しつつあり、ARR(年間リカーリング収益)は100億円突破(FY2026Q2時点)という象徴的なマイルストーンを達成済み。米国事業の80%超成長が継続すれば、グローバルIoTプラットフォームとしての再評価余地がある。
一方で、売上高122億円に対して時価総額446億円はPSR約3.6倍に相当し、配当なし・営業利益率7%台という水準を考慮すると、成長持続性と利益率改善が株価維持の鍵となる。KDDI傘下でIPOした「スイングバイIPO」形態と、KDDIによるのれん価値認定が下値を支える要素として機能している。