1. 「通航不可能」の一報を、売り注文に変える前に

同じ日に、中東の細い海の話が2本並びました。

イランがホルムズ海峡を管理するためとして設置した「ペルシャ湾海峡庁」は7月31日、米軍による攻撃的な動きが続いているとして、海峡の通航が「不可能になっている」とX(旧ツイッター)に投稿しました。同庁は「事態が安定し次第、全ての申請を検討し、許可証を順次発行する」ともしています。

もう1本は紅海です。イエメンの武装組織フーシは、紅海の要衝で通航料は求めず、封鎖の対象は「サウジのみ」だと主張しました。7月20日には、イエメン内戦で敵対するサウジが海上封鎖を行っているとして「サウジ(船舶)への封鎖で対抗する」と発表していました。

そして事実の側でも動きがあります。英海事当局は8月1日、オマーン沖のホルムズ海峡周辺でタンカーに飛翔体が衝突し、機関室が損傷したと明らかにしました。別のタンカーの近くでも爆発があったと伝えられています。

こういうヘッドラインを見たとき、多くの人は「よくわからないから、とりあえず怖い」という状態になります。ですが、わからないのは中東情勢そのものではないはずです。わからないのは、その出来事が自分の持ち株の株価まで、どの道を通って、どのくらいの速さで届くのかという部分でしょう。

だからこの記事では、地図の解説ではなく配管の解説をします。ニュースが東京市場の板に届くまでの経路を4本に分け、それぞれ「何が動くか」「どの指標で見えるか」「どのくらい遅れて効くか」をセットにしていきます。

怖いのは海峡ではなく、経路が見えないことなのだ。

2. 二つの細い場所——怖さを決めるのは「量」ではなく「代替の有無」

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海峡です。原油や液化天然ガス(LNG)を積んだ巨大タンカーの通り道で、世界が消費する原油の2割がここを通ります。海上輸送される石油で見ても、約20%がこの海峡を通過するとされています。

日本にとっては、もっと重い場所です。中東地域の原油は日本の原油輸入量の9割を占め、そのほとんどがホルムズ海峡を経由します。時事通信はこれを「エネルギーの大動脈」と表現しました。

数字でも裏が取れます。財務省貿易統計をもとにした集計では、2025年の日本の原油輸入シェアはUAEが43.3%で首位、次いでサウジアラビア39.3%、クウェート6.1%、カタール4.1%、米国3.8%の順でした。中東依存度は約94%に達しています。

しかも日本は、そもそも自前のエネルギーをほとんど持ちません。一次エネルギー自給率——国内で消費するエネルギーのうち自国でまかなえる割合のことですが、これは15%程度(2024年)にとどまり、供給構成の約35%を原油が占めています。

ところが、同じ「中東依存」でも燃料によって様子がまるで違います。LNGの国別輸入比率(2024年度)はオーストラリア38.4%、マレーシア15.7%、米国8.8%、ロシア8.6%、カタール4.3%と分散しています。家庭用のLPガスに至っては、中東依存度が2007年度の91%から22年度には1割未満まで下がりました。国内の4割、2200万世帯が使う燃料が、米国のシェールガス革命をきっかけに調達先を散らして「勝ち組」になったわけです。

つまり日本のエネルギーは、一枚岩で中東に握られているのではありません。原油だけが、突出して細い一本の海路にぶら下がっている状態です。

ホルムズの実務的な怖さは、封鎖されたときの逃げ道の少なさに出ました。ジェトロによれば、2月末以降の事実上の封鎖を受けて、カタール、クウェートからの輸入はほとんど停止しました。一方でサウジアラビアやUAEはホルムズ海峡を通らない代替ルートを持ち、オマーンとの貿易ルートはそもそもペルシャ湾を通りません。同じ「中東」でも、迂回路の有無で明暗が割れたのです。

もう一つのチョークポイントである紅海・バブエルマンデブ海峡は、性質が違います。ここはスエズ運河へ抜ける関門であり、止まっても喜望峰を回るという代替があります。ただし迂回はタダではありません。喜望峰迂回によって航海日数は10〜14日増え、実質的な輸送能力は約15〜20%低下すると指摘されています。

紅海が止まっても、船は遠回りすれば着きます。ホルムズが止まると、船は行き場を失います。

チョークポイントの怖さを決めるのは、通る量ではなく、迂回できるかどうか。

3. 4つのパイプ——ニュースが株価に届くまでの経路と時間差

ホルムズ海峡のニュースが日本株に届くまで。ホルムズ海峡の通航不安から分かれる4つの経路。原油価格(最速)、戦争保険料・航海日数(数日)、タンカー運賃(数日〜数週間)、輸入物価・企業コスト(最も遅い)

ここからが本題です。中東のヘッドラインは、4本のパイプを通って東京市場に届きます。速さも、戻りやすさも、それぞれ違います。

(a) 原油価格——最速。ただし動いているのは「不安の値段」

最初に動くのは先物価格です。ヘッドラインと同じ日に反応します。

たとえば7月8日、米イラン情勢の再緊張とホルムズ海峡でのタンカー航行が「ほぼ停止」しているという状況を受け、WTI原油先物は7.49%上昇して75.717ドル、ブレント原油先物は7.88%上昇して80.006ドルと報じられました。1日でこれだけ動きます。

ここで日本の投資家が見落としやすい点が一つあります。ニュースでよく見るWTI(米国産)やブレント(欧州産)よりも、日本に効くのはドバイ原油だという点です。内閣府の資料によれば、米国とイスラエルによるイラン攻撃前の2月27日に1バレル70.7ドルだったドバイ原油は、3月19日には169.8ドルまで、一時プラス140%の上昇となりました。同じ期間の北海ブレント先物はプラス50%、WTI先物はプラス43%です。

日本の原油輸入額の94%(輸入総額の8%、2025年)は中東産原油が占め、その中心となる価格指標がドバイ原油です。WTIだけを眺めていると、日本が受けている痛みをかなり小さく見誤ることになります。

そして重要なのは、この段階で動いているのが実際のモノ不足ではなく、「リスクプレミアム」——将来止まるかもしれないという不安に付けられた上乗せ分だという点です。不安の値段は、不安が消えれば剥がれます。

(b) タンカー運賃——数日から数週間遅れて効く

次に動くのが、船を借りる値段です。

原油タンカーの運賃には「ワールドスケール(WS)」という独特の指標が使われます。ワールドスケール協会が航路ごとに決めた基準運賃を100として、実際の契約が基準の何%かを示す仕組みです。合意した運賃率が基準運賃の50%なら「WS50」と表記される、という読み方になります。

中東—中国航路の大型原油タンカー(VLCC)のスポット運賃は、この物差しで見ると平時とはまるで違う世界に入りました。2026年第3週(1月12〜16日)の週平均はWS103.19で、前週のWS61.58から急伸しました。第6週にはWS139.09、そして3月16〜20日の第12週には週平均WS464.57まで跳ね上がり、WS850の成約報告も出ています。

ただし、この数字は素直に「船会社が儲かった」とは読めません。3月23〜27日の第13週は週平均WS376.97、低硫黄燃料油使用時の日建て用船料に換算すると38万ドル程度とみられましたが、海事プレスONLINEは「依然としてホルムズ海峡が事実上封鎖されている中で、指標航路であるペルシャ湾内積みの輸送はほとんど成立していない」と伝えています。

高い運賃が付いているのに、その運賃で運ぶ船がいません。運賃指標は、こういう歪み方をすることがあります。

© 戦争保険料と航海日数——「運賃」より先に壊れる場所

船が通らなくなるとき、最初に壊れるのは運賃ではありません。保険料と日数です。

戦争の危険がある水域に入る船が支払う追加料金を、追加戦争リスク保険料(AWRP)と呼びます。米国が2月28日にイランを攻撃する前、この費用は船舶価値の約0.25%でした。それが3月の第1週には約3%まで上昇しています。1億ドルのタンカーなら、1回の航海につき約300万ドルという計算です。

再保険ブローカーのHowden Reの整理では、紛争前におよそ0.10〜0.125%だった戦争リスク料率が2026年3月には2〜3%となり、変化率でプラス1,000〜2,400%と記録されています。船の平均的な価値を2億5,000万ドルと置けば、3%の料率は1航海あたり750万ドル規模の保険料を意味します。3月9日までに、ホルムズ海峡における船舶保険料率は前週比で4〜6倍に上昇したとも報じられました。

しかもこれは、海峡が開けば元に戻るという種類のコストではありません。Al Jazeeraの取材に応じた海上保険関係者は、海峡が再開しても料率は戦前の0.25%弱に対して1%から5%程度のレンジになりうると語っています。

もう一つが日数です。喜望峰迂回で航海日数が10〜14日増え、実質的な輸送能力が約15〜20%低下します。この分は運賃表に載らない値上げとして、ディーゼル油、船舶燃料、鉱工業生産の投入コストへ転嫁されていきます。

保険料と日数は、株価チャートに直接は映りません。じわじわ効いて、あとから業績に出てくるタイプの経路です。

(d) 輸入物価から企業コスト、そして金利観測へ——最も遅く、最も広い

4本目が、いちばん遅くて、いちばん広く効く経路です。

原油高は、まず輸入物価に出ます。6月の輸入物価指数(円ベース)は前年比プラス29.7%と、5月のプラス26.1%からさらに加速しました。2021〜22年の局面を除けば、第二次オイルショック(1979〜80年)後で最も高い伸びです。

続いて企業間の取引価格に移ります。日銀が発表した6月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は135.4と前年同月比7.1%上昇し、5月の6.6%と民間予想の中央値6.8%をともに上回りました。2023年3月以来の水準です。

この「川上から川下へ」の流れには、ある程度わかっているタイムテーブルがあります。日銀の試算では、原油価格がプラス100%上昇した場合、石油化学基礎製品はショック発生の翌月あたりからプラス47%程度引き上げられ、合成樹脂・化学繊維など原油由来の中間財も3〜5か月後を中心にプラス18%程度上昇するとされています。

電気代はもっと機械的です。燃料費調整制度のもとで、電力会社ごとに原油・LNG・一般炭の3〜5か月前の平均輸入価格に基づいて決まります。都市ガス代もほぼ同じ仕組みです。つまり今払っている電気代は、数か月前の海の状況の請求書だと言えます。

そして最終地点が消費者物価です。2021〜22年の局面では、輸入物価上昇のピークの半年後に国内企業物価がピークをつけ、1年後に消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)がピークを迎えました。ここまで来ると、中東と一見無関係な内需企業まで巻き込まれます。物価が上がれば金利の見方が変わり、金利の見方が変われば株式の評価そのものが動くからです。

4本を並べると、性格の違いがはっきりします。速い経路ほど不安の値段でできていて、不安が消えれば戻ります。遅い経路ほど実際のコスト構造でできていて、一度書き換わると戻りません。

速い痛みは剥がれ、遅い痛みは残るのである。

4. 同じニュースで符号が逆になる——セクターの効き方

同じヘッドラインが、企業によってプラスにもマイナスにも効きます。ここを整理しておくと、慌てなくて済みます。

原油が「売り物」の側から見ましょう。資源開発大手のINPEXは3月30日、中央アジアのカザフスタンとアゼルバイジャンで生産する原油を優先して日本企業に販売する方針を明らかにしました。カスピ海沖の油田権益を7〜9%程度保有し、1日当たりの生産量は合わせて約78万バレルです。主に欧州向けだった分を、日本の石油元売りなどの要望に応じて振り向けるという内容です。

総合商社も資源権益を持つ側にいます。日経は3月18日に「三井物産8031の株価上値追う 資源高で商社株の先頭に」と報じました。

ところが、話はそこで終わりません。同じ商社が、逆側でも殴られています。伊藤忠はホルムズ海峡封鎖で石油取引に一部影響が出たと3月2日に報じられ、伊藤忠や三井物産が出資するカタールのLNG設備は停止し「再開見通せず」と伝えられました。権益を持つということは、値段が上がる恩恵と、生産が止まるリスクの両方を持つということです。

海運も同じ構図です。運賃や保険料の上昇は収益機会に見えますが、日経は「海運3社、ホルムズ海峡通航できず 長期化ならエネルギー供給に打撃」と報じています。運賃指標がいくら跳ねても、船が通れなければ積む荷物がありません。加えて低硫黄燃料油が6割上昇し、船舶燃料高が関連株の下押し要因になったとも伝えられました。

コストが増える側は、もっとわかりやすい顔をしています。電力・都市ガスは燃料費調整制度の3〜5か月の遅れを抱えたまま燃料費を負い、空運や陸運は燃料そのものを買います。化学は石油化学基礎製品の値上がりを投入コストとして受け取ります。そして値上げの転嫁が効きにくい内需・小売が、いちばん最後に残ります。

では市場全体ではどうなるのか。ゆうちょ銀行7182のレポートは、原油高局面では日本株が劣後する傾向が強いと指摘しています。理由は身も蓋もありません。エネルギー価格上昇の恩恵を受ける関連セクターは、時価総額でも利益でも市場全体に占める割合が小さいからです。同レポートは、北海ブレント原油価格が10%上昇すると日本企業の純利益は1〜2%程度減少すると見込んでいます。

ただし、企業の側も黙って殴られているわけではありません。みずほ銀行の分析によれば、今回の局面では企業がコスト上昇分を積極的に販売価格へ転嫁しており、輸出物価指数(円ベース)は6月に前年比プラス20.7%まで加速しました。日銀短観(6月調査)の経常利益計画は全規模・全産業ベースで前年度比マイナス6.5%と、2023〜25年度と概ね同水準にとどまっています。

セクター表を暗記する必要はありません。必要なのは、持ち株ごとに一行だけ問うことです。

その会社にとって原油は、売り物か、仕入れか。

(ここではセクターの構造だけを説明しています。個別銘柄の売買を勧めるものではありません。)

5. 「初動で下げて数週間で戻る」の分かれ目

地政学のニュースで急落した株価が、数週間で戻ることがあります。今回の局面でも、東京市場は海峡のニュースに素直に往復しました。

4月6日には「ホルムズ海峡の開放に向けた期待」で日経平均が一時900円高となり、4月13日には「米イラン協議合意せず」で一時600円安となりました。翌14日には「米・イランの交渉期待」で大幅反発しています。市場は、開くのか閉じるのかという一点だけを見て、上下に振られていたわけです。

戻る理由は単純です。最初に動いた経路が、不安の値段でできているからです。実際、7月5日にOPECが8月の原油生産量を日量18.8万バレル増産すると決定した際、アナリストはホルムズ海峡における原油輸送が段階的に回復したことで、以前の地政学的リスクプレミアムが後退したと指摘しています。日経も「日本向けなどタンカー6隻ホルムズ通過 原油4%安で衝突前水準近づく」と報じました。

では、戻らないのはどういうときか。分かれ目は一つしかありません。実際に供給が止まったかどうかです。

今回はその線を越えた月がありました。ロイターは、2026年4月の日本の原油輸入が数量ベースで64%減、金額ベースで49.9%減だったと報じ、財務省当局者の説明として、この数量減少が1980年以来最大の落ち込みだったと伝えています。ジェトロの集計でも、4月の中東からの「原油および粗油」の輸入量は前年同月比67.2%減の384万キロリットルでした。

ここまで来ると、不安の値段が剥がれる剥がれないという話ではありません。実際に入ってこなかったのですから、コスト構造そのものが書き換わります。

だから読者に必要なのは、報道を2種類に仕分ける習慣です。

一つは発言ベースの報道です。「不可能になっている」「封鎖を示唆」「可能性がある」といった、誰かが何かを言ったという情報を指します。今回のペルシャ湾海峡庁の投稿も、フーシ幹部の発言も、この分類に入ります。

もう一つは事実ベースの報道です。通航実績、出荷量、輸入統計、保険の引受停止、そして「タンカーに飛翔体が衝突し機関室が損傷した」という被害の確認が当たります。コスモの原油タンカーがホルムズを通過して7月中旬に帰港した、タンカー6隻が通過した、という通航の事実もここに入ります。

供給の側にはクッションもあります。日本の石油備蓄は254日分と報じられ、政府は5月分の原油を代替調達などで例年の6割、6月には例年の7割以上を調達する見込みだとしました。三菱UFJアセットマネジメントの2026年8月のレポートは、代替調達の進展で原油・粗油の輸入量が回復し、7月のPMIが供給制約のピークアウトを示唆していると整理しています。

言葉が止めたのか、船が止まったのか。分かれ目はそこだけである。

6. 無料で追える指標と、その更新頻度

道具の話をします。特別な端末は要りません。

原油価格は日次で見られます。ただしWTIとブレントだけでなく、ドバイ原油を必ず横に置いてください。日本のエネルギー価格は中東産原油に連動するものが多く、内閣府も日本の中心指標はドバイ原油だと明記しています。攻撃前後の上昇率がドバイでプラス140%、ブレントでプラス50%、WTIでプラス43%と割れた事実が、その理由をそのまま示しています。

タンカー運賃は週次です。海事プレスONLINEのVLCC市況週間レポートのように、中東—極東航路のワールドスケール週平均が定期的に公表されています。ここで注意したいのは、原油タンカーと乾貨物船では見る指数が別物だという点です。ニュースでよく聞く指数が必ずしも原油の話とは限りません。

通航実績の報道は、更新頻度こそ不定期ですが、優先度はいちばん高いと考えてください。何隻通ったか、どの船がいつ帰港したか。これが第5章で言う「事実ベース」の中核です。

輸入物価指数と企業物価指数は月次です。日銀が公表します。6月の輸入物価はプラス29.7%、企業物価はプラス7.1%でした。この2つは、遅い経路がどこまで進んだかを測る中間地点になります。

消費者物価指数(CPI)も月次で、最も遅い答え合わせです。2021〜22年の経験では、輸入物価のピークから半年後に企業物価、1年後にCPIがピークを迎えました。

電気代とガス代は、実はカレンダーで読める部分があります。燃料費調整制度が3〜5か月前の平均輸入価格を使うため、いま起きている原油高がいつ請求書に現れるかは、あらかじめ見当が付きます。

最後に為替です。ここは深追いしません。ただ一点だけ触れておきます。日本は円で外貨建ての原油を買うので、原油高と円安は足し算ではなく掛け算になります。輸入物価が円ベースで前年比プラス29.7%まで伸びた背景には、原油だけでなく円安もあると分析されています。三菱UFJアセットマネジメントも8月のレポートで「止まらぬ円安」を日本経済の論点に挙げました。

7. やってはいけないこと

一つ目は、ヘッドラインを見た瞬間の狼狽売りです。最も速い経路である先物は、その日のうちに動き切ります。7月8日にWTIが1日で7.49%上昇したように、価格はニュースと同時に走ります。個人が後追いで動く頃には、いちばん悪い値段になっていることが多いのです。

二つ目は、テーマ株への高値飛び乗りです。運賃指標が第12週にWS464.57まで跳ねたとき、その水準は「儲かっている」だけでなく「通れないから取引が成立していない」ことの裏返しでもありました。実際、翌週はWS376.97へ軟化しています。供給が止まらなかったと判明した瞬間、上乗せされていた不安の値段は一気に剥がれます。

では、私たちに何ができるのか。派手さのない作業を一つだけ勧めます。

自分の持ち株を紙に並べて、それぞれに「原油は売り物か、仕入れか」と「4つの経路のどれに、どの符号でつながるか」を書き添えてみてください。書けない銘柄が出てきたら、それは中東のニュースでは動かない銘柄か、あるいは自分がまだ理解していない銘柄かのどちらかです。どちらであっても、わかったこと自体に価値があります。

この作業は、次に同じヘッドラインが出たときに効きます。ゼロから慌てる代わりに、手元のメモを更新するだけで済むからです。

8. まとめ——地図の話ではなく、コストの話

チョークポイントのニュースは、地理の話に見えて、実際にはコストの話です。最後に論点を回収しておきます。

  • 怖さを決めるのは通る量ではなく代替の有無です。紅海は喜望峰迂回で航海日数が10〜14日増えますが、道はあります。ホルムズは、日本の原油輸入の9割が通る一本道です。
  • ニュースは4本のパイプで届きます。原油価格が同日、タンカー運賃が数日〜数週、戦争保険料と航海日数がじわじわ、輸入物価から企業物価・CPIが数か月〜1年です。
  • 速い経路は不安の値段でできているので戻りやすく、遅い経路は実際のコストなので戻りにくくなります。
  • 符号は企業によって逆になります。資源権益を持つ側は値上がりの恩恵と生産停止のリスクを同時に抱え、燃料を買う側は素直にコスト増を負います。市場全体では、ブレント10%上昇で日本企業の純利益は1〜2%程度減少すると見込まれています。
  • 戻るか戻らないかの分かれ目は、実際に供給が止まったかどうかです。発言ベースの報道と、通航実績・輸入統計といった事実ベースの報道を必ず分けて読みます。
  • 追う道具は、ドバイ原油(日次)、VLCCのワールドスケール(週次)、輸入物価・企業物価(月次)、CPI(月次)、そして通航実績の報道です。

次に「海峡が止まる」というヘッドラインが流れたとき、最初にすべきことは注文画面を開くことではありません。4本のうちどのパイプの話なのか、そしてそれが発言なのか事実なのかを確かめることです。それだけで、判断の質はかなり変わります。

情勢の先行きを言い当てることはできません。ですが、届き方の順番を知っておくことはできます。

本記事は公開情報をもとにした解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。