1. 解約の申し込みが「全部は通らない」とき、何が起きるのか

上場している株や上場REIT(証券取引所で売買できる不動産ファンド)を売るとき、私たちは「価格」を心配します。いくらで売れるか、いくら損するか。売れるかどうかそのものを心配することは、まずありません。

ところが、非上場のファンドでは話が変わります。解約を申し込んでも、その全部が通らないことがあるからです。

ブラックストーンが運用するプライベート・クレジット・ファンド(非上場のまま企業に融資して利息を稼ぐファンド)では、2四半期連続で解約制限が実施されたと報じられました。同ファンドでは第3四半期に、投資家から43億ドル、株式の10%相当の解約請求が出ています。2026年第1四半期には、過去最高となる7.9%(期初純資産比)の解約申請に直面したとも伝えられています。

同じ時期、ブラックロックは運用規模260億ドル(約4.1兆円)のHPS企業ローン・ファンド(HLEND)で投資家の解約を制限すると発表しました。アレス・マネジメントが運用するファンドも1〜3月期の解約請求が約11.6%にのぼり、解約制限に踏み切っています。スイスのパートナーズ・グループも、傘下ファンドで解約請求がさらに増えていることを明らかにしました。

ここで大事なのは、固有名詞の詮索ではありません。これらは事故ではなく、そう作られている、という一点です。

高い利回りには理由があります。その理由の一部は、すぐに降りられないことへの対価として、あらかじめ商品に織り込まれています。流動性は、後から思い出す注意書きではないのだ。

この記事では、利回りではなく流動性の側から商品を測る手順を持ち帰っていただきます。

2. 上場と非上場の決定的な違いは「いつでも時価で降りられるか」

解約のしやすさで見る3つの型。1 上場株と上場REIT、2 公募の投資信託、3 非上場ファンド

比べる軸は3つで足ります。「誰が買い手か」「価格はどう決まるか」「いつ現金になるか」です。

上場株と上場REIT(J-REIT)の場合、買い手は市場にいる他の投資家です。J-REITは証券取引所に上場していて、株式と同じように証券会社を通じて売買できます。価格は不利かもしれませんが、降りること自体は成立します。

公募の投資信託は少し違います。買い手はファンド自身で、価格は基準価額です。たとえば三井住友銀行が販売するアジア好利回りリート・ファンドの目論見書には、換金価額は換金申込受付日の翌営業日の基準価額から信託財産留保額(解約時にファンドへ置いていくお金)を差し引いた価額とあり、換金代金は原則として換金申込受付日から起算して7営業日目から支払われる、と書かれています。日数は決まっています。それでも、大口の換金や取引所の取引停止といった場合には、換金に制限がかかりうることも同じ書面に書かれています。

投資信託には「オープンエンド型」と「クローズドエンド型」という分類もあります。前者は原則として運用期間中も解約できるもの、後者は運用期間満了(または一定期間経過)まで換金できないものです。

そして非上場ファンドです。買い手は原則としてファンド自身しかいません。ファンドの手元現金と、原資産をどれだけ速く売れるかが、そのまま解約の上限になります。ピクテの整理によれば、私募BDC(機関投資家向けの非上場の企業向け融資ファンド)は中途解約不可が基本で、上場BDCの中途解約も不可が基本です。個人にも開かれているのは非上場の公募BDCで、こちらは四半期など定期的な償還ができる設計になっています。

日本の私募REITも同じ性格を持ちます。市場取引がないため、解約や償還まで資金が拘束されることが多く、中途解約や持分売却が制限されている場合があります。不動産証券化協会の集計では、私募REITの投資法人数は2025年6月末基準で60に増えました。

上場と非上場を分けるのは利回りの高さではない。買い手がいるかどうかである。

3. ゲート条項の算数 —— 「四半期にNAVの5%」が意味すること

ゲートの上限と押し寄せた解約申請。門の幅 5%、押し寄せた列 40%

非上場ファンドの多くは、償還額に上限を置いています。これが「ゲート条項」です。門の幅をあらかじめ決めておく、という意味だと考えてください。

上限の水準は、業界でおおよそ揃っています。三井住友DSアセットマネジメントは、非上場の公募BDCなどについて「解約の受付は四半期ごと、上限額は純資産の5%まで」といった制限が設定されていることがある、と説明しています。ピクテも、解約上限をファンド純資産総額または発行済株式総数の5%とするのが通例だとしています。フランクリン・テンプルトンも、こうしたセミ・リキッド型(半分だけ換金できる型)ファンドで一般的に示されている解約方針は四半期ごとにNAV(純資産価値、ファンドの正味の資産額)の5%だと書いています。

まず、その5%を電卓に入れてみます。ある解説記事は説明用の仮設例として、NAVが1,000億円、1回あたりの償還上限を四半期NAVの5%とすると、その四半期に応じられる上限額は1,000億円×5%=50億円になる、と示しています。つまり、その四半期にファンドの外へ出ていけるお金は、50億円で頭打ちになります。

では、申し込みがそれを超えるとどうなるか。実際に起きたことが記録されています。

米国のプライベートクレジットでは、あるファンドで純資産価値の4割に及ぶ解約申請が出ました。ただし、ほとんどのゲート条項により四半期ごとの償還は5%に制限されています。門の幅が5%なのに対し、押し寄せた列は40%です。この二つの数字を並べるだけで、その四半期に通るのが申し込みのごく一部にとどまることは、計算しなくても見えます。

もっと生々しいのが、非上場NAV REITのスターウッド(SREIT)です。2025年第4四半期、月次の償還上限はおよそ1億2,200万ドルでした。これに対して、月々の解約請求は10億ドル近くに達しています。投資家が受け取れたのは、申し込んだ額のおよそ4%です。

そして門は、開いたり閉じたりします。SREITは2024年5月に上限を84%削減し、資産を売っていったん緩めたものの、それでも請求に追いつかず、2026年4月30日時点でほぼすべての償還を停止しました。残された窓口は、死亡・障害と5,000ドル未満の口座に限られ、それも月間合計500万ドルの上限付きです。分配金も2026年4月に約25%引き下げられ(クラスIで6.3%から4.7%へ)、2024年と2025年の分配は100%が資本の払い戻しに分類されました。

一方で、同じくゲートを絞ったブラックストーンのBREITは按分での対応を経て、2024年2月までに償還能力を完全に回復しています。ブラックストーンの2026年第1四半期の説明では、BREITは12億ドルを調達して前年同期比44%増、買い戻しは41%減となり、2か月連続で資金の純流入に戻ったと報告されています。

止まるファンドもあれば、戻るファンドもあります。ここが「非上場だから危ない」と一括りにできない部分です。

運用する側の理屈も、フェアに書いておきます。オフィスビルも貸付債権も、数日では売れません。上限がなければ、解約に応じるための投げ売りが起き、残った投資家の資産価値まで削られます。三井住友DSアセットマネジメントが「解約せずに投資を続ける投資家の資産を保全する意味合いもある」と書くのは、そういうことです。

それでも、投資家の側には痛みが残ります。現金が必要になるタイミングと、解約が通るタイミングがずれるからです。分配金は受け取れているのに、元本が動かせない。ゲートは、閉じ込める門であると同時に、残る人を守る堤防でもある。

4. NAVは遅れてくる —— 鑑定評価と「評価の平滑化」

平滑化の有無で変わるボラティリティ。報告ベースのボラティリティ 4.6%、平滑化を取り除くと 13.8%

もう一つ、非上場ファンドで測っておくべきものがあります。値段のつき方です。

上場REITの価格は毎日、市場参加者の総意で更新されます。だから下げは即座に見えます。ニッセイ基礎研究所によれば、2026年3月末のJ-REIT市場全体のNAV倍率は0.86倍でした。保有不動産の価値に対して14%安く売られている状態で、これは将来およそ9%の不動産評価の下落を織り込んだ水準だと説明されています。

対して非上場ファンドのNAVは、鑑定評価や内部評価に基づき、更新も月次・四半期と粗くなります。ここに「平滑化」(スムージング)が入り込みます。値動きを均してしまう作用、と考えてください。

これは印象論ではなく、研究で測られています。CFAの教材で示される私募不動産のデータでは、四半期リターンの系列相関が0.85にのぼり、報告ベースのボラティリティ(値動きの荒さ)は4.6%ですが、平滑化を取り除くと13.8%まで跳ね上がります。ウォートンのリンネマン論文(Working paper #493)は、NCREIF(米国の私募不動産指数)が鑑定評価を使うことで評価のラグに加えて4つの人工的な平滑化を持ち込み、その結果として「市場のリターン」ではなく「市場のないリターン」を映していると指摘しています。同じ平滑化とラグをREITのリターンにも適用し、レバレッジ(借入による増幅)を揃えて比べると、両者の測定ボラティリティはほぼ等しくなった、という結論です。

穏やかに見えるのは、穏やかだからではありません。観測が遅く、平らにならされているからです。

同じことは、値段そのものの水準にも出ています。米国の上場REIT業界がまとめた分析によると、上場と非上場の不動産評価の乖離は記録的な17四半期に達し、キャップレート(不動産の利回り、価格に対する収益の比率)の差は1.45%と開いたままです。REITのキャップレートは10年国債利回りの変化に大きく反応してきたのに対し、私募の鑑定キャップレートはほとんど反応せず、この3年間、2021年末のREITインプライド水準に据え置かれたままだと指摘されています。2025年第3四半期時点でも、この官民のキャップレート差は112ベーシスポイント(bps、金利や利回りの差を表す単位)ありました。

投資家心理への効き方は、ここから素直に導けます。値動きが見えないと、リスクを取っていないように錯覚します。そして解約が殺到するのは、たいていNAVが遅れて下方修正された後です。つまり、流動性がいちばん必要になる局面で、門がいちばん狭くなります。

批判の材料も残っています。BREITについては、直近3年間の年率リターンが0.3%(ノーロード・クラスで0.9%)にとどまったという指摘や、もし上場されていたら2022年の底で6割近く下げていたはずだというチルトン・キャピタルの主張が紹介されています。この主張自体は過大だという見方も多い、と同じ記事は付け加えています。同じ時期、上場REITは30%超の下落を経験しました。

私たちにできる確認は、実は素朴です。同じような不動産や融資を持つ上場の商品を横に並べて、価格がどう動いたかを見ます。非上場のNAVがそこから離れているなら、それは安定ではなく遅れかもしれないと疑います。安定して見えるのではない。遅れて見えているだけなのだ。

5. 買う前に見る4項目 —— 目論見書のどこを開くか

買う前に見る4項目。4つが並ぶ。解約条件、NAVの算定頻度と算定者、原資産の種類、レバレッジ

ここからは手順です。パンフレットの利回りではなく、目論見書と契約締結前交付書面の次の4か所を開いてください。

1つめ、解約条件。申し込みから入金までの日数、月次・四半期の上限、ロックアップ(一定期間解約できない縛り)、解約時の手数料。公募投信なら「換金代金は換金申込受付日から起算して7営業日目から」といった具体的な日数が書かれています。非上場ファンドなら、書かれているのは日数ではなく上限です。米国のある非上場ビークルの届出書には、株主には償還を求める権利がなく、四半期ごとに買い戻しの機会を提供することはあっても、特定の四半期に買い戻しを提供する義務は負わない、と明記されています。悪いサインは、上限の記載が曖昧なことではありません。上限があるのに、販売資料の側では触れられていないことです。

2つめ、NAVの算定頻度と算定者。誰が評価するのか、外部の鑑定なのか内部評価なのか、更新は月次か四半期か。研究では、外部鑑定による指数のボラティリティは上場株のそれと統計的に差がないのに対し、社内鑑定による指数はそうならなかったという結果も報告されています。誰が値段をつけているかは、値段そのものと同じくらい重要です。

3つめ、原資産の種類。現金化までの速さで並べると、上場証券、貸付債権、不動産、未公開株の順に遅くなります。持っているものが遅いほど、門は狭くなります。プライベートクレジットには、資金難に陥った借り手が利払いを繰り延べるPIKという仕組みも使われており、ストレス時の反応には不確実性が残ると指摘されています。

4つめ、レバレッジ。借入の比率です。SREITが償還停止まで追い込まれた一方で、窓口を開け続けたJLLインカム・プロパティ・トラストとヌビーン・グローバル・シティーズREITは、SREITのごく一部のレバレッジで運用していたからこそ高い評価を得た、と整理されています。借入は上げ相場では利回りを押し上げますが、下げ相場では自己資本の目減りを増幅し、そして何より、売り急ぎを強制します。

この4つは、利回りの数字より前に読むものです。

6. まとめ —— 流動性は利回りの一部として値段がついている

プライベートクレジットのリターンが相対的に高いのは、「非流動性プレミアム」——流動性の低さに起因する金利の上乗せ幅——と「信用リスクプレミアム」があるからだと説明されます。この説明を裏返すと、こうなります。高い利回りの一部は、すぐに降りられないことへの対価として、私たちが受け取っているお金です。

それ自体は悪ではありません。当面使わない資金で長期に持てるなら、流動性を手放して対価を受け取るという選択は成立します。問題は、その対価を受け取っている自覚がないまま、利回りの数字だけで買ってしまうことです。

日本の個人にとって、これはもう遠い話ではありません。モーニングスターの調査では、日本の個人投資家向けプライベート資産ファンドの残高は2026年3月末時点で1.5兆円を超えました。金融庁も、国内の金融機関に影響が出ていないか確認を進めている模様だと報じられています。ブラックストーンの旗艦ファンドについては、日本では解約制限を設けなかったとも伝えられました。制度は同じでも、運用の裁量で扱いが分かれる領域が残っているということです。

一方で、過剰に怖がる必要もありません。ゴールドマン・サックスは、長期の機関投資家資金と十分な待機資金を理由に、現時点でシステム的なリスクには至っていないと分析しています。ピクテも、金融当局の指摘のとおり金融システム・リスクにすぐ発展する可能性は高くないとしたうえで、ストレス経験がほぼないことへの懸念は残ると書いています。過去には、2007年に欧州の大手銀行が傘下ファンドの解約を停止したことが世界金融危機の幕開けとなりました。だからこそ、既視感を語るより、手元の商品の条項を読むほうが役に立ちます。

では、私たちに何ができるのか。

商品を見るとき、利回りの隣にもう一列だけ足してください。「降りるのに何四半期かかるか」です。門の幅(四半期にNAVの何%か)、更新の頻度(NAVは月次か四半期か)、そして誰が値段をつけているか。この3つを書き添えるだけで、同じ利回りの商品がまったく違って見えてきます。

利回りの数字の隣に、降りるまでの時間を書き添える。それが、非上場を持つ人の最低限の作法。


本記事は公開情報をもとにした解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。