1. 「誰も見ていない銘柄」という言葉には、二つの意味がある

2026年8月29日、日本経済新聞に「アナリスト不在、ノーマーク銘柄にAI有望株 PER100倍超株」という見出しが載りました。同じシリーズには「PER100倍超株②」「「ガラス球、水深1万メートルに耐える」 PER100倍超株④」といった続きも並んでいます。

この見出しには、投資家の心をつかむ言葉が三つ詰まっています。「アナリスト不在」「ノーマーク」、そして「PER100倍超」です。どれも強い言葉ですが、意味は一つに決まりません。

「誰も見ていない」は、まだ誰も気づいていないお宝の合図にも読めます。同時に、誰も検算していないという警告にも読めます。同じ事実が、期待の材料にも、リスクの材料にもなるのです。

この記事で持ち帰っていただきたいのは、三つの手順です。カバレッジ(証券会社のアナリストが継続的に分析・予想を出している状態)がなぜ生まれないのかという経済の仕組み。PER100倍という数字から、その株価が織り込んでいる利益成長を逆算する計算。そして「AIが有望と判定した」という情報の置き場所。

カバレッジの空白は、答えではなく、宿題なのだ。

2. アナリストは、なぜその銘柄を見ないのか

中小型株のうちアナリスト未カバー企業数(市場区分別)。プライム 46社、スタンダード 74社、グロース 16社

まず押さえておきたいのは、カバレッジの有無が「企業の良し悪しの評価」ではないという点です。それは証券会社側のそろばんで決まります。

IRの専門メディアの解説によると、アナリストが一社をカバーするには、企業への訪問取材、決算説明会への参加、業界動向の調査、財務モデルの構築、レポートの執筆といった作業が必要になるとされています。人件費のかかる固定費です。そしてこのコストの回収源は、レポートをきっかけに顧客が売買してくれることで生まれる手数料収入だと説明されています。

つまり、売買が薄い銘柄では、どれだけ丁寧なレポートを書いてもコストが回収できません。時価総額が小さく流動性(売りたいときに売れる度合い)が低い銘柄では、この収益構造が成り立ちにくいと指摘されています。

規模がそのまま門番になる、という構造も見えます。東証の基準では、プライム市場は流通株式時価総額100億円以上・時価総額250億円以上、スタンダード市場は流通株式時価総額10億円以上といった水準が求められるとされています。流通株式時価総額とは、大株主が抱え込んでいる分を除いた、市場で実際に売買されうる株式の時価のことです。時価総額が低い状態が続けば機関投資家の投資対象から外れ、証券会社・アナリストのカバレッジも減り、それがさらに株価低迷を招く——そんな負のスパイラルが起こりかねないと解説されています。

では、空白はどれくらい広いのか。日本経済新聞は「アナリスト不足の日本株 7割不在で投資マネーの壁に」と題した記事で、証券アナリストによる株価や業績の予想がない銘柄は日本株全体の7割に達すると報じています。新NISA開始から1年が経ち、大型銘柄と中堅以下との売買代金の格差が鮮明になっている、という文脈で語られた数字です。

「小さいから見られない」だけではありません。同じIRメディアは、東証プライム市場で時価総額1,000億円を超えていてもアナリストゼロの企業として、ワコールホールディングス3591、ノジマ、ジャストシステム4686東建コーポレーション1766トラスコ中山9830、松竹、松屋フーズホールディングス9887といった社名を挙げています。日常的に名前を目にする企業ばかりです。

証券アナリスト協会のアンケートでは、中小型株企業のうちプライムが46社、スタンダードが74社、グロースが16社という内訳だったとも紹介されています。プライム市場でも未カバーは珍しくない、ということです。

逆に、企業側の努力で空白が埋まることもあります。ある運用会社は、パイロットコーポレーション7846が情報開示の限定的だった状態からIR部門を新設し、2024年2月に初となる決算説明会を開催した結果、機関投資家の関心が高まりセルサイドのカバレッジも拡充した、と説明しています。

そして、これは日本だけの話ではありません。2018年に施行されたEUのMiFID II(第2次金融商品市場指令)は、リサーチと取引手数料の分離、いわゆるアンバンドリングを義務付けました。英国では2018年1月3日から施行されています。リサーチが有料化された結果、欧州企業をカバーするアナリスト数が減り、特に中小型株の調査が縮小したとされます(Fang et al., 2020)。欧州のエクイティリサーチ人員は2013年以降14%減ったというデータも紹介されています。

野村資本市場クォータリーの2023年秋号は、中小型株を中心にリサーチ・カバレッジが縮小するという副作用を背景に、この規制の大幅な見直しが行われていると報じています。日本の資産運用業界でも、アンバンドリングが導入されればリサーチ費用の減少を招き、社債や中小型株式のカバレッジの取りやめにつながる可能性が高いと危惧する声が多かったと記録されています。

カバーされないことは、企業の実力ではなく、そろばんの結果である。

3. カバレッジの空白は、情報の非対称性の裏返し

10年間のトータルリターン比較。中小型バリュー株 252.0%、大型バリュー株 179.4%、日本株全体 174.7%

「誰も見ていないから安い」は、どこまで正しいのでしょうか。

株価は、参加者が持ち寄った情報が反映されて決まります。参加者が少なく、情報の非対称性(見ている人と見ていない人の間に生まれる情報量の差)が大きければ、本来の価値からずれた価格が残りやすくなります。ここまでは筋が通っています。

実際、中小型株セグメントは大型株に比べてアナリストによるカバレッジが薄く、情報が非対称になりやすいため市場の非効率性が残りやすいという特性が指摘されています。フィデリティ投信のレポートをもとにした集計では、2015年2月末から2025年2月末までの10年間のトータルリターンで、中小型バリュー株が+252.0%と、大型バリュー株の+179.4%、日本株全体の+174.7%を上回ったと紹介されています。

ところが、話はそこで終わりません。学術の側からは、慎重な見方も出ています。日本株のファクターモデルを検証した研究では、裁定コストの高いユニバースで特に強い超過収益が観測されるという海外の指摘(Yan/Zheng[2017])について、日本株ではそのような傾向は観測されなかったと報告されています。

ここで大事なのは方向の話です。参加者が少ないことでずれが残るなら、そのずれは「安すぎる」側にも「高すぎる」側にも、同じだけ働きます。カバレッジの空白は割安の証拠ではなく、価格の誤差が大きいという意味しか持ちません。

そしてもう一つ。ミスプライス(価格の歪み)を取りにいくということは、他人の分析を借りられないということでもあります。誰かが作った財務モデルも、誰かが取材した経営者の言葉も、そこにはありません。

空白が保証するのは割安ではなく、誤差の大きさだ。

4. PER100倍が意味していること——まず分母を疑う

業種別のPER水準。海運業 12.0倍、銀行業 16.1倍、情報・通信業 24.6倍、医薬品 30.5倍

ここからは数字の話に移ります。PER(株価収益率)は「株価 ÷ EPS(1株当たり純利益)」で計算される指標だと解説されています。株価1,000円でEPSが100円なら、PERは10倍です。株価が2,000円になればPERは20倍になります。会社全体で見れば「時価総額 ÷ 純利益」でも同じ数字が出ます。

PER100倍という値を見たとき、多くの人は分子である株価を見ます。ですが最初に疑うべきは、分母のEPSのほうです。

松井証券8628の解説は、PERが高くなる理由を二つに分けています。一つは株価が高いケースです。もう一つはEPSが小さいケースです。一時的な業績悪化や特別損失などで利益が減るとEPSは減少し、PERは高くなります。この場合、一見PERは高く見えても、たまたまその年が高かっただけということも考えられる、と指摘されています。

分母が小さいだけでPERが跳ね上がる場面は、いくつかあります。黒字化したばかりの期、一過性の減益が出た期、先行投資や償却の負担が重い成長期、特別損失を計上した直後の期が代表例です。どれも「利益が薄い」だけで、PERは簡単に三桁に届きます。

逆もあります。資産売却などの一過性の利益で分母が膨らめば、PERは実力より不自然に低く出ます。PERは利益の大きさを見ますが、利益の質は問いません。

さらに、どの利益で割るかでも顔が変わります。過去の確定値で割るのが実績PER、今期以降の予想値で割るのが予想PERです。野村證券の解説によれば、予想PERには「時間の経過」という厄介な問題があり、期末が近づくほど業績予想に占める実績値の割合が増え、予想PERとしての本来の役割は果たしにくくなるとされています。純利益がマイナス、つまり赤字予想の場合は、そもそも予想PERを計算できません。

計算できないことは、実際に起こります。2026年上半期の株価上昇率ランキングを集計した記事では、上昇率の上位に並んだキオクシアホールディングス285AのPER欄が「-」で表示され、同じ表で太陽誘電にはPER116倍という数字が付いています。三桁のPERは、絵空事の水準ではありません。

そして水準そのものが業種で違います。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の解説は、PERには業種により高い業種と低い業種があり、何倍なら割高・割安という絶対的な基準はないため、比較は同業種間で行うのが良いとしています。実際、業種別に集計されたデータでは海運業のPERが12.0倍、銀行業が16.1倍である一方、情報・通信業は24.6倍、医薬品は30.5倍と並んでいます。

市場全体の目線も押さえておきましょう。日経の国内株式指標によれば、予想PERはプライム全銘柄で17.01倍、スタンダード全銘柄で14.59倍、グロース全銘柄で36.88倍とされています。100倍という値札は、成長企業が集まるグロース市場の平均と比べても、なお数倍の高さにあります。

5. 電卓で確かめる:PER100倍が正当化される利益成長率

PER100倍が20倍に収れんするために必要な年率利益成長率。5年 38%、10年 17%

では、PER100倍という値札は、何を約束させられている数字なのでしょうか。ここは自分の手で検算できます。以下の数字はすべて、手順を説明するための仮の設定です。実在の銘柄の予想ではありません。

考え方はシンプルです。今のPERが100倍の会社が、N年後に「普通の会社」として評価されるとしたら、利益は何倍になっている必要があるか。それを割り算で出すだけです。

仮に、出口の評価を市場平均に近いPER20倍と置きます。株価が今のまま変わらないとすれば、必要な利益の倍率は 100 ÷ 20 = 5倍です。5年で5倍なら、年率は 5の5乗根から1を引いて、約38%。10年で5倍なら、5の10乗根から1を引いて、約17%になります。

この年率は、掛け算を巻き戻しただけの数字です。それでも、この重みは変わりません。5年間、毎年4割近く利益を積み増し続けて、ようやく株価は今の場所に戻ってくる、ということですから。

ここまで出したら、次はその会社の開示と突き合わせます。中期経営計画に書かれた利益の伸び。過去の実績値の伸び。そして、その会社が過去の計画をどれくらい達成してきたか。必要成長率が計画を大きく上回っているなら、株価はまだ誰も約束していない未来を先に織り込んでいることになります。

参考までに、開示された中期計画の伸び率がどの程度の水準で語られるかを見ておきましょう。ある運用会社は、パイロットコーポレーションが2025年2月に開示した中期経営計画について、3か年で500億円規模の成長投資と総還元性向50%以上の方針が示されたものの、売上成長率は年率約5%にとどまったと評しています。年率5%と年率38%の距離感を、そのまま感じ取ってください。

成長率を織り込む指標として、PEGレシオもよく使われます。PEGレシオは「予想PER ÷ 1株当たりの予想利益成長率」で計算され、1倍以下なら割安、2倍以上なら割高と言われています。ピーター・リンチは、PERと期待成長率が等しい状態、つまりPEG1.0を適正評価とみなしたと紹介されています。

ただし万能ではありません。PEGレシオは、黒字で成長率が安定した成熟企業に最も適しており、成長率の変動が大きい企業や赤字企業では信頼性が下がるとされています。分母に入れる成長率をどこから取るかで、答えはいくらでも動きます。

PER100倍という値札は、将来の成長を先に払った領収書である。

6. 「AIが有望と判定した」を、どう受け取るか

見出しに戻ります。「AI有望株」という言葉を、どう扱えばよいでしょうか。

出発点は、スクリーニングと予測を分けることです。スクリーニングは、条件に合う銘柄を機械的に絞り込む作業です。予測は、将来を当てにいく作業です。前者は誰がやっても再現できますが、後者はそうではありません。

過去データで良い成績を示したモデルには、いくつかの落とし穴が知られています。バックテスト(過去データでの検証)の設計を扱った解説は、疑うべき代表格として、ルックアヘッド、サバイバーシップ、過学習、取引コスト、スリッページ、データスヌーピングの6つを挙げています。

素人向けに噛み砕くと、こうなります。サバイバーシップ、つまり生存者バイアスは、途中で消えた会社がデータに残らないため、生き残った勝ち組だけを見て成績を測ってしまう歪みです。過学習は、過去のデータに合わせ込みすぎて、未来では効かなくなることを指します。データスヌーピングは、何百通りも試したうちの当たりだけを見せられると、偶然が実力に見えてしまうことを指します。

生成AIそのものにも注意点があります。事実に基づかない情報をもっともらしい文章として出力してしまう「ハルシネーション」という現象が知られており、出力を鵜呑みにせず根拠を確認する利用者側のリテラシーが重要だとされています。

だからこそ、置き場所を決めておきます。AIの出力は、数千社が並ぶ市場のなかから「どれを先に調べるか」の順番を決める道具としては優秀です。買う理由としては足りません。

先に結果を見るのではなく、先に疑い方を決めておく——それがバックテストの設計で説かれている作法です。

7. カバレッジがない銘柄で、自分が代わりにやる作業

アナリストがいないなら、その作業は自分に回ってきます。幸い、一次資料は無料で公開されています。

EDINETは金融庁が運営する電子開示システムで、誰でも無料で24時間、有価証券報告書を閲覧できるとされています。企業名から探す提出者検索、提出日や書類種別で探す書類検索、内容をキーワードで探す全文検索など、5つの検索方法を使い分けられると解説されています。

見る場所も決まっています。貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書のいわゆる財務3表は「第5 経理の状況」に記載されているとされます。事業別や地域別の売上高・利益を示すセグメント情報は、連結財務諸表の注記にあります。どの事業が稼ぎ、どの事業が食っているのかは、全体の数字だけでは分かりません。

利益とキャッシュフローのズレも確認したいところです。利益は会計上の計算ですが、キャッシュフローは実際に動いたお金の出入りを示します。この二つが長く食い違う会社は、理由を説明できるまで保留にしておく——それくらいの慎重さで構いません。

赤信号も一次資料に書かれています。監査報告書、つまり監査法人が決算書の適正さについて意見を述べる書類では、注文を付けない「無限定適正意見」が最も望ましく、「限定付適正意見」「不適正意見」「意見不表明」は注意が必要だとされています。会社が事業を続けられるか疑義があるときに付く「継続企業の前提に関する注記」も要注意とされます。訂正報告書が多い企業は内部管理体制に問題がある可能性がある、という指摘もあります。

予想PERを自分で計算するときの実務も、押さえておきましょう。野村證券の解説によれば、EPSは決算短信の業績予想欄に「1株当たり親会社の所有者に帰属する当期利益」といった表記で記載されており、株価をその値で割れば予想PERを計算できるとされています。使うのは四半期実績ではなく、通期の年度予想です。

あとは、会社が自分で立てた計画と、その通信簿を並べるだけです。中期経営計画に書いた数字を、その会社は過去に何回達成したのか。カバレッジのない銘柄で最も価値のある情報は、たいていこの一点に集まります。

8. 最後に効いてくるのは、売れるかどうか

分析が正しくても、売れなければ利益になりません。小型で売買の薄い銘柄では、ここが最後の関門になります。

日本経済新聞は、新NISA開始から1年が経つなかで、大型銘柄と中堅以下との売買代金の格差が鮮明になっていると指摘しています。投資先の偏りはリスクマネーの目詰まりを起こし、企業の成長を阻みかねない、とも書かれています。この目詰まりは、市場全体の問題であると同時に、個人の売買の問題でもあります。

確認の手順は単純です。自分が入れようとしている金額と、その銘柄の1日の売買代金を並べてみることです。日本取引所グループは売買代金順位表や売買高・売買代金の統計を公開しており、誰でも見ることができます。

自分の注文が1日の売買代金に対して大きすぎるなら、買うときも売るときも、自分の注文自体が値段を動かします。悪材料が出た日に、思った値段では手放せない場面も出てきます。

上場維持の話も、流動性と地続きです。東京証券取引所では、時価総額が10億円未満の状態が一定期間続くと整理銘柄への指定、さらには上場廃止になることがあるとされています。プライム市場の流通時価総額100億円、グロース市場の2030年時価総額100億円といった新しい上場維持基準を踏まえ、株価と流動性を意識したIR活動が必要になっていると解説する資料もあります。

含み益は、約定するまで存在しない。

9. まとめ:見出しを、手順に変える

「アナリスト不在、ノーマーク銘柄にAI有望株 PER100倍超株」——この一行を、三つの問いに置き換えて終わりにします。

  • カバレッジがない理由は何か。規模と流動性というそろばんの結果なのか、それとも事業の中身に理由があるのか。日本株全体の7割に予想がないという事実を思い出せば、不在それ自体は珍しくありません。
  • その株価は、どれだけの成長を織り込んでいるのか。出口のPERを置いて割り算し、必要な利益倍率と年率を出します。そのうえで、会社が開示した中期計画と過去の達成率に突き合わせます。
  • AIの判定は、何を根拠にしているのか。生存者バイアス、過学習、データスヌーピングを潜り抜けた根拠なのか。調べる順番を決める道具として使い、買う理由には昇格させません。

三つとも、他人が代わりに答えてくれない問いです。カバレッジがないというのは、まさに「代わりに答えてくれる人がいない」という意味なのですから。

では、私たちに何ができるのか。値札の裏側にある必要成長率を自分で出すこと。一次資料で分母の質を確かめること。そして、売れる大きさの範囲で試すこと。この三つが、カバレッジ空白地帯に踏み込むときの基本になります。

答えを出すのは、読者自身。


本記事は公開情報をもとにした解説であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。